大嫌いな王子様 ー前編ー

暁おとと約束した1ヶ月が過ぎたけど、今の所なにも変化はない。

ほんとにこのまま甘えてていいんだろうか。



「またね、みっちゃん」
「明日ね〜」


学校帰り。
数日前の日曜デートを思い出す。


一瞬でも暁斗くんをキス魔だと思った私が心底恥ずかしい。


あれからはまた放置プレイで、下手したら朝の挨拶ぐらいしかしてない。
朝向こうが早かったら朝ご飯食べずに行ったりもして会えないし、帰ってからもお互い仕事だし。

いや、これが平常運転だよ。
もう、絶対勘違いしないんだから!!


門のところが少し騒ついている。



「あれ、優聖学園の制服だよね?」
「さすが優聖。顔のレベルが高いわぁ〜」

優聖?
もしかして…暁斗くん!?


私は門まで走った。



「あ、伊織ちゃん見っけ♪」

「佐伯…くん!?」


なぜ、佐伯くんがこんな所に…



「あの子、暁斗様と噂の…」
「1年だよな?なんでアイツばっかり接点が…」


おわー!
周りの声、怖い〜!!


「伊織ちゃん、ちょっとお茶でもー…」
「え!?道に迷った!?それは大変!」

バビュンッ!!

私は佐伯くんを連れて、猛ダッシュした。




「ゼェゼェ…」

「走るの結構速いんだな」

涼しい顔の佐伯くん。
誰のせいで・・・


「何の用ですか?」

「あんたと話したくて♪お茶でもしようよ」

「無理だよ。私今からバイトだもん」  

「どこで?」

「暁斗くんの家で」

「はぁ!?ズル過ぎねぇか!?俺も働く!」

「なんでやねん!てか、声うるさいわ!」


あ、勢いでとうとう口にも関西弁が出るようになってしまった。



「仕方ねぇ。皆実ん家に着くまで喋ろうぜ」

だから、なんで!?



「この前は…悪かったな」
「え?」

「2人の所…邪魔して」

もしかして、謝るために来てくれたの?



「ほんとだよー!せっかく色々初めて記念日だったのに」

「チッ…だから俺は…「でも」

「私ゲーセン初めてだったんだけど、ひとりじゃなくてみんなで行けたのが嬉しかったよ。暁斗くんも楽しんでたし」



「…………」

「まぁ、でもちょっとヤキモチ妬いちゃったけどね!なんてね!」


なんでそんな笑えんの?
もっと知りたい、この子のこと…

「佐伯くん?」

ハッと我にかえり、伸ばしかけてた手を引っ込めた。
俺、今なにしようとして…



「あんたに俺の気持ちバレてしまったしな。今日はその口止めにきたんだよ」


「心配しなくても誰にも言わないよ」


佐伯くんって、第一印象と全然違うな。


「初めて会った時、佐伯くんて暁斗くんと仲悪いんだと思ってました」


「え?そう見えた?」

「だって雰囲気すごく悪かったし」

「あー…アイツさ、数年前まであんな感じじゃなかったんだよ。普通に話すしさ」



(回想)

小学6年生の頃の佐伯と暁斗のお話。


「お前、偉そうなんだよ。ちょっとサッカーがうまいからって」

「ミキちゃんからも好きって言われて調子乗ってんじゃねぇよ」


は?誰だよミキって。


「うっせぇな。だったらお前ら努力しろ」

ちょっと体育のサッカーで俺が目立ったぐらいで、休み時間に呼び出しとかキショい。

これだから、金持ちのガキたちは嫌いなんだよ。


「でもさー、コイツの親普通のサラリーマンらしいぜ?」

「なんで優聖来てんの?可哀想〜」


コイツら…

「お父さんたちのこと悪く言うな!」

「は?なに偉そうに言ってんの?」


5対1

周りの奴らにおさえられたら、抵抗出来ない。


「1発、2発くらわせたら身の程がわかるだろ」


くそっ…
こんな学校、やめてやる!




ガシッ!

「面白いことやってんね?」


あれ…?
痛くない。


そっと目を開けると、皆実くんがいた。



「いて、いでで…」

俺の前に立って、殴りかかってきた奴の腕を掴んでる。



「あ?痛いだ?お前、コイツにもっとひでーことしようとしてたんだぞ」

皆実くんがそいつの手を離し、そいつはバタッとその場に倒れ込む。


「先に味わうか?どんな痛みか」

皆実くんはそいつに馬乗りになり、右手を振り上げた。



「皆実くん!大丈夫だから!!」

俺が叫ぶと皆実くんの腕は止まり、そいつらは走って逃げていった。



同じクラスだったけど、ほとんど話したことがなかった皆実くん。


「あの…ありがとう!」


「しょうもない奴らに絡まれんな」


そう言ってその場をあとにした皆実くん。
俺は、その時のかっこよさから目が離せなくなったんだ。



(回想終了)



ん?

えーーっと…暁斗くんとの馴れ初め?的なことはわかったけど…

今とそんな変わってなくない!?
話し方は安定の俺様だし、ケンカっ早いし。



「男らしくてかっこいいよな、皆実」

目がキラキラして乙女モード全開の佐伯くん。



「でも、中学入る前ぐらいから人を寄せつけない雰囲気になりだして1年ぐらいから前はもっとひどくなった」


もしかして…お母さんが亡くなった頃から…?
それに1年前なら弟さんも家出した頃…



暁斗くん…



「話しかけても無視が多くて、俺もだんだん腹が立ってきて…そんな時あんたが現れたんだよ」

「私…?」


「そ。あんたと一緒のときのアイツの表情や態度が昔に戻ってるような気がしてさ…。だから、また懲りずにチョッカイかけるようにしたってわけ」


そうだったんだ…


「去年のクリスマスの時なんか、皆実デレデレしてたもんなぁ」


「デレデレ!?してないよ!!…てか、見てたの!?」


そうなんだ。
佐伯くんには、私といる時の暁斗くんはそんな風に映ってるんだ。

だから、私はさっきの話を聞いた時に今とあんまり変わらないように感じたのかな…?



暁斗くんの暗い心の部分を、少しでもなんとかしたい。
今までの暁斗くんをもっと知りたい。
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