大嫌いな王子様 ー前編ー
「ありがとうございましたー!」

係員さんの明るい声とは裏腹に、私は放心状態。
あぁよかった。
私生きてる。


「伊織、大丈夫!?」

「大丈夫だよ」
ちょっと吐きそうなぐらい。


「少し休憩する?」

そう言って長谷川くんが私の背中に手を添えてくれた。




「いい、俺が連れていく」

長谷川くんの手を振り払った暁斗くん。



「みっちゃん、あとは頼むわ。ちょっといお休ませる」

「はいは〜い。こっちは任せて〜」


私、迷惑かけまくりだ…



近くの広場にあるベンチに連れてきてくれた。


「バカか。無理ならはじめから乗るな」

「だって…初めてだったからわからなかったし、みんなと乗りたかったし…」


そんな怒んなくても。。
でも、結果的にみんなに迷惑かけてるんだよね。



チッと舌打ちをしてどこかに行っちゃった暁斗くん。
呆れられちゃったかなぁ。


楽しみにしていた遠足。
まさかの暁斗くんにも会えたのに、私なにしてるんだろ。


みんなと過ごせるのが嬉しくて調子乗っちゃった。

やっぱり私なんか……



ヒヤー…

「つめたっ!」

ほっぺに冷たいものが当たった。



「飲め。ちょっとはスッキリするだろ」

スポーツドリンク。
わざわざ買ってきてくれたの?


「ありがとう…」

隣にドカッと座った暁斗くん。



「暁斗くん、みんなの所に戻って?せっかくの遠足なんだし」

「しょうもないこと言ってねーで、さっさと飲め」

「はい…」



巻き込んじゃってごめんね。



「俺は今が1番楽しいかも」

「え??」

「服、似合ってる」


暁斗くん、急に優しくなるから心がついていけない。

「あ、ありがとう…」

うわー。すごく嬉しい。



「なんかさ」

「うん?」



「別々の学校で、こんな風に会えたら運命って気がししねぇ?」


私、乗り物酔いでさっきから耳がおかしくなってるのかな?

今、“運命”って言った?
暁斗くんが言った??


「おい、無視かよ」

もう……なんでそんな簡単に運命って言うかなぁ。



「じゃあ…この運命絶対離さないようにしなきゃ」


嬉し過ぎて泣きそうになっちゃうじゃんか。




ドキンッ
暁斗くんが私の頬に触れる。


「他の男に触らせんな」

「えっと…!」


あ!さっき長谷川くんと手繋いでしまった!
繋ぐというか、握られたというか!


「あ?なんだ?なんかあるならとっとと言え」

こーわーいー!!


「さ…さっきジェットコースターで長谷川くんと隣だったんだけど…その時私が怖がり過ぎてたから……長谷川くんが手を握ってくれて…えっと…」

嘘はつきたくない。
だけど、うまく言えない。


「私が悪いの!怖がり過ぎてたから安心させるために長谷川くんが…!」




ぎゅうっ!


「わかったから」


あれ…?
てっきり怒られると思っちゃった。



「暁斗くん…あの…ごめんなさい」

「いお…」


あ、優しい声。


っと思った瞬間、頭をガシッと掴まれた。

「次はねーぞ。わかったな?」



やっぱ怖いー!!!



「私が悪かったかもだけど…なんで命令口調なの!?やっぱ腹立つ!!」

「は?お前誰に向かって言ってんだ?一生コースター乗ってろ」

「はぁ?あんたこそ乗ってれば!」



ヤバイ!これじゃ、いつも通りの流れだ!!


ブンブンッ
私は頭を横に振った。


「なにしてんの?」

「…言い合いはなしです」

「お前からふっかけてきたんだろうが」


そうだけども!!

「せっかく…運命かもしれない日に揉めたくないから」



コツン…


暁斗くんが自分のおでこを私のおでこに、コツンとあてた。


「俺さ、さっきから我慢してんだけど…キスしていい?」


かぁぁぁ!!
自分の顔が一気に赤くなるのがわかった。


「ダメです!!みんながいるこんな場所で!!」

「じゃあ2人になれる所行くか」

「そういう問題じゃなくて!!」


ちえーっと不貞腐れる暁斗くん。
俺様で塩なのに、優しかったりたまにこんなに可愛かったり…

私は無意識に暁斗くんの頭を撫でていた。


「チッ…なんだよ?」

「べつに♪」

暁斗くんは忙しいなぁ。




「あーー!!!いたー!!!!」


ビクッ!!!


「皆実ー!!!あっなんで伊織がいるんだよー!」


「げ…佐伯…」


忘れてた。
暁斗くんがいるってことは、この人も絶対来てるんだった。


「同じグループになってくれないしさー!俺の前からすぐ消えるしさー!」

こっちに来てすぐさま暁斗くんに抱きつく佐伯くん。
もはや、初めの印象は全くない。


「お前がウザイから逃げてたんだよ」


そんな2人のやり取りを見て、心がポカポカするのはなんでだろう。


「佐伯くんも一緒に行こっか」

「俺は皆実と2人がいいんだよー」

「それはダメー!」



「ウザイ…お前ら2人で行けよ」



こんな楽しい遠足なら、毎日でもいい!

…いや、それは言い過ぎかな?
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