大嫌いな王子様 ー前編ー

「なんか飲むか?」

「私入れてきますよ」

「大丈夫。適当に持ってきた」


暁斗くんが紅茶とコーヒーを用意してくれていた。



「じゃあ私は紅茶をいただきます」  


なんだか緊張するなぁ。

どうしたんだろ?
和希くんのこととかかな?




「今日は…ありがとな」


えっ


「あっつ!」

驚き過ぎて紅茶を少しこぼしてしまった。



「なにしてんだよ」

ちょっと呆れ模様の暁斗くん。



「だっだって!暁斗くんにお礼言われるなんて…!レア過ぎてビックリしちゃって」


「あ?ケンカ売ってんのか?」

「いえ!けっしてそんなことは!!」


俺様暁斗くんがいきなり“ありがとう”だよ!?
そりゃビックリするよ。



「でも、なんのお礼?」

私お礼言われるようなことしたっけ?



「いや、その……」

こりゃまた珍しく、暁斗くんがモゴモゴしてる。



「和希見つけてくれて…なにより、帰りとかいおが一緒で助かったよ。アイツと2人だったらどうしたらいいかわからなかった」


また暁斗くんの新しい一面。

いつも強気な俺様。
なのに、少し困った表情で弱くも見える暁斗くん。



ぎゅう

私は気づけば暁斗くんを抱きしめていた。



「いお…?」

今のこの感情をきちんと言葉にするのは難しい。



「うまく言えないけど、私そばにいるから。だからいつでも頼ってください」


少しでも暁斗くんの力になりたい。
暁斗くんの不安や悲しいことを減らしたい。


「強くいなくていいんだよ…」


弱い所も全部見せて。
私も暁斗くんを守りたいから。



私を抱きしめる力が強くなった。

言葉はなくても、暁斗くんの気持ちが少しわかったように感じた。




「和希はさ…」


ガチャッ


え!!??

私は咄嗟に暁斗くんから離れる。




「暁兄、腹減ったー…ってあれ?伊織もいたんだ」


和希くんがいきなりやってきた。
抱きしめてたの、見られてないよね!?


「和希くん!どうしたの!?」

焦って、夜中だと言うのに大声になってしまった。


「伊織、声大きい…。腹減ったんだよねー。何か作って?」


「和希くん寝ちゃってたもんね。すぐ作るから待ってて!」


私はキッチンへ向かった。
いきなり入ってきてビックリしたよー。



ーーーーーーーーー

「伊織、いい子だね」

「あぁ」

「あんな子がお嫁さんだったらいいなぁ」

「お前…昔からその発想変わんねぇな」

「え?だって付き合うってことは、この先もずっと一緒にいたいってことだし」

「極端なんだよ、お前は」



俺の嫌な予感は当たる。




「暁兄はそう思わないの?じゃあ、伊織のこと俺にちょうだいよ♪」


コイツが出て行った時もそうだった。



「は?ふざけたこと言ってんじゃねぇよ」

「ふざけてないし。むしろ真剣なんだけど」



1年ぶりに帰ってきた奴の発言とは思えない。
でも、これが和希。



「いおは俺のもんだ」


「ちえーっ。でも決めるのは伊織だよな?」


挑戦的な目。



「お前には無理」

悪いけど、これだけは譲れない。




「暁兄ってほんとケチだよね」

「お前ケチの意味わかって言ってんのか?とっとと、いおの所行くぞ」


「はいは〜い」



和希が戻ってきた。
ずっと探していた和希が。
< 80 / 139 >

この作品をシェア

pagetop