大嫌いな王子様 ー前編ー


明後日から始業式が始まる。


お風呂から上がり、部屋へ向かっているとトイレから出てきた和希くんに会った。



「和希くん、おやすみ」

「ねぇ伊織」


おやすみに対しておかしな返答。



「ちょっと喋ろうよ」


なにか話したいのかもしれない。



「うん、いいよ」 




パタンッ

和希くんの部屋にやってきた。



和希くんはベッドに、私はソファーに座った。


「伊織さ、暁兄と付き合ってどれぐらい?」

「え!なにいきなり!」

「興味あって」


なんか…恥ずかしいな。。



「元旦からだから3ヶ月だよ」

「元旦に付き合ったの!?なんかロマンチックだな」


え?そうかな?
クリスマスとかならロマンチックに感じるけど。。



「父さんには会った?」

「あ…うん。クリスマスに」

「うわ、よりにもよってクリスマスに?最悪だね」


危うく、うんって言いそうになった。
あぶない


「ヒドイこと言われたんじゃない?」

「ううん、大丈夫だよ」

「大丈夫ってことは言われたんだ」


和希くんって天然なのに、こういう所すごく鋭い。




「俺は…父さんが嫌い」


ドクンッ

和希くんに初めて出会った時と同じ、冷たい怖い表情。



「っていうか、この家が嫌い」


全てを諦めてるような寂しくて冷めてる表情。



「どうして…?」

聞いて…いいのかな。



「父さんの言いなりで、ろくなことねぇよ。アイツのせいで母さんはー…!」


お母さん…!?


和希くんがグッと手を握ったのがわかった。
何かを我慢したのだろう。




「…伊織はさ、学校楽しい?行く意味あると思う?」

なんとゆーか…責任重大な質問。。


「私ね、今まで学校は勉強のためだけに行ってたの」

ほんとにそうだった。



「暁斗くんに聞いてるかもしれないけど私、母子家庭で結構貧乏で、高校に入ってからはアルバイト三昧」


「でもその生活は楽しかったの。ほんとは就職した方がよかったのに、お母さんは学校に行かせてくれた」


その気持ちに応えたかった。


「学校終わったらすぐアルバイトだから友達と遊んだりもなくて自然と距離ができてたかな。だから学校行事とか楽しんだことなかった」


だけどね、それを変えてくれたんだよ。



「そんな私の人生を暁斗くんが変えてくれたんだよ。この前ね、野外遠足があったんだけどすごく楽しかったの」


あ〜やっぱり私って語彙力ない。
全然うまく話せない。
そんな私の話をじっと静かに聞いてくれる和希くん。



「長くなってごめんね!ようするに、学校は楽しい所だし、それは自分自身の変化にもよるのかなって思ったの」


和希くんなら絶対大丈夫だから。  


「暁斗くんは和希くんのことを、すごく大切に思ってるんだなってものすごくわかるから」


絶対守ってくれるよ。




「チャレンジだけでもしてみない?」


私は和希くんに近づいて、和希くんの手を握った。


「大丈夫だよ。暁斗くんも飯田さんも牧さんも…みんなそばにいるから。あ、私もオマケでつけてください」


一緒に頑張ろう。




ぎゅっ

えっ…
和希くんに抱きしめられた。


「えっと和希くん…」

「じゃあ…ちょっとだけ頑張ってみる」



「うん…」



おこがまし過ぎるんだけど、ほんとの弟のように守りたくて仕方がない。
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