大嫌いな王子様 ー前編ー

バタンッ

家に入ると、なにやら甘い匂い。

チョコの匂いか?
なんでこんな時間に。


俺はゆっくりとキッチンの方へ向かう。
匂いはこっちからだ。


キッチンに明かりがついている。
誰かいる。

近づくにつれ、物音と声が聞こえてきた。



「あれ?なんでこっちは割れてるのー!まぁ、2つは成功したかな」



は?


どう聞いても、いおの声。


俺は夢中でキッチンまで走り、ドアを勢いよく開けた。



バンッ!!



目の前には、ずっと探していたいお。
こっちに振り向いて驚いた顔のいお。


「えっ…!あ…あの!え!?」

かなりテンパってる。


でも、もっとテンパってるのは俺だ。



何かを作ってたのか、エプロンをつけたままのいおを俺は抱きしめた。


「えっと…暁斗くん?」


「はぁー…マジ許さねぇ。こんな…」

こんな心配かけやがって。

いお…ほんとに無事でよかった。



「え!何を怒ってるの!?」

「うるさい。黙れ」


今はこのまま少し、いおの体温を感じさせて。
俺の腕の中にいるんだって実感させて。



俺もバカだな。
なんで家の中をもっと探さなかったんだろ。

それぐらい焦ってたんだ。
いおがいなくなったことに。


いおの顔を見る。


ん?と俺を見るいお。


「い!いひゃいー」

その顔を見て、安心からかイラッとして頬をつねった。




あれ?

「なんか付いてる」

いおの頬になにか黒いものが付いている。



「暁斗くん!とりあえず部屋に戻って!」


イラッ

「は?なんで?」

無事見つけたのに、なんで追い出されなきゃいけねぇんだよ。←勝手に探し回ってただけ



「だって〜・・・」

さっきから動きが変ないお。


あと
「なんかチョコの匂いする」


「あ〜〜〜〜!!バレてしまったぁ〜〜!!」

いきなり叫び出した。

「夜中だぞ。声でけぇよバカ」


チラッといおの後ろを覗くと、カップケーキが見えた。


「カップケーキじゃん」

「マフィンです」

ちょっと食い気味に訂正された。



「これ、いおが作ったの?」

「うん。ちょっと何個か割れたりしたけど…」


なんで今作ってんだ?
なんでマフィンなんだ?

謎がさらに増える。



「ラッピングして明日渡したかったのに」

「俺に?」


なんで?
俺、誕生日だっけ?
いや違うな。

わかんねぇ。なんだ?なんかあったか?




「バレンタインだよ」



・・・・・・・

「は……?」


「バレンタインのチョコだよ」

「いお…カレンダー読めてるか?」


バレンタインって確か…2月だよな?
いおがおかしいのか、俺が実はおかしいのか。



「あのね…!言い訳なんだけど、私今までバレンタインとか意識したことなかったの。だけど、かなり遅れたし今更になるけど…暁斗くんにきちんとバレンタインのチョコを渡したいと思って」



それでわざわざ作ってくれたんだ?



「ふーん」

バカいお。
そばにいてくれるだけでいいのに。



「じゃあ、これもチョコだな」

「え?」


ペロッと暁斗くんが私の右ほっぺを舐めた。


「わっ!ちょっと…!」

「甘い」


恥ずかしくて顔は絶対真っ赤。



「それ、割れてるやつもちょうだい」

「これは私が食べます」

「無理。全部俺の」

「えっと…和希くんや飯田さんや牧さんにも渡したくて」

「無理。アイツらにはいらねー」


わぁ。
俺様+わがままコラボが始まった。




「暁斗くん、ラッピングするからあっちに行ってよ」

「嫌。このままでもラッピング出来るだろ」


後ろからのハグで、私の肩に暁斗くんが顎を乗せている。


ドキドキしまくりなのに、こんな状態でラッピング出来るわけないやろーー!!!
このドキドキがわからへんのかー!!!!!!



「暁斗くん、邪魔です」

「誰に向かって言ってんだ?しばくぞ」



ハグやチョコは甘いけど、言葉はかなりの俺様ど直球。




「ひと口ちょうだい」

なんだかちょっと甘えたモードも入ってる暁斗くん。



割れてる部分を少しつまんで、暁斗くんの口に運んだ。



暁斗くんが食べてくれた時に、私の指にも口が触れてそれだけでドキドキがさらにうるさくなる。


私ってやっぱり…変態なのか……!!??



「うめー。これ、やっぱ全部俺のな」



ドキンッ!!


そんな可愛く優しく笑うから、私の心臓はさらに飛び跳ねて鼓動を限界まで速くする。



「暁斗くん、片付けしますから少し離れてください」

「なんで?このままでも出来るだろ」


んなむちゃな。。
後ろからのハグはこのまましばらく続いた。



俺様の塩なのか、甘いのか全然わからない王子様。



「遅れたけど…ハッピーバレンタインね!暁斗くん」

「来年は絶対守れ」
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