大嫌いな王子様
「伊織様、到着いたしました」
「あ…ありがとうございます……」
ヤバイ。。
車の周りに人集りが出来てる。
こんな高級車から私が出てきたら、確実ネタじゃん。
「はよ降りろ。俺が遅刻する」
「はっはい!」
私は周りを見るのが怖くて、目を瞑って車を降りた。
「え?伊織?」
「みっちゃん!!」
車を出るとみっちゃんがいた。
みっちゃんの元へ駆け寄る。
「いお!」
え?今の声は…
高級車の窓が開いて、キモ野郎が顔を出す。
「帰り迎えに来るからな。先帰んなよ」
そう言って窓は閉まり、車は走りだした。
えーーっと…何が起きた?
周りは騒ついている。
「あの子、確かB組の…」
「さっきの人、暁斗さんじゃない!?」
「なんで暁斗様とあんな子が一緒にいるの!?」
ん?あきと??
だれ???
ぽんっ
「ちょっと色々詳しく話してもらおうか」
みっちゃんが私の肩に手を乗せ、圧力をかけてきた。
「っていうか、今すぐ話せ」
「はっはいー!」
あれから、休み時間のたびに人がたくさん私を見にくる。
そんなに見る!?
「まぁー、あの“みなみグループ”の御曹司くんだもんね〜。有名人じゃん」
「そんなに有名なの?」
「あんたぐらいよ、この辺で知らないのは」
みっちゃんは呆れている。
「まぁしばらくは晒し者かもだけど、時期に落ち着くわよ」
今まで全然注目なんて浴びることがなかったから、戸惑いまくってしまう。
「それにしても、御曹司くんイケメンだね〜!あんたが羨ましいわ」
「え?あのキモ野郎が?」
「あんた、キモ野郎って呼んでんの!?」
「本人にはさすがに言ってないよ!!ムカつくし偉そうだしだから、大バカ金持ちケ…」
「ケ…?」
ケンカは言っちゃいけないんだった。
「おっ…大バカ金持ちキモ野郎なの」
「御曹司に向かってあんたは…」
それに、よく考えたらアイツの名前知らなかった。
聞いてもなかったな。
朝、誰かがあきとって言ってたような……
あっという間に下校時間。
「先帰る」
「え!でも御曹司が待っててって言ってたじゃん」
「あんな車で迎えなんて…目立つもん」
「私御曹司に会いたいし、待とうよ!」
みっちゃん、この状況を楽しんでるな。。
とにかく校門へ向かう。
もうすぐ門という所で、あの車が停まった。
1歩、、いや20歩ほど遅かった。。。
ガチャッ
キモ野郎が車から出てきた。
周りからはキャーッと声が上がる。
こうして見ると、やっぱり目立つんだな。
綺麗な顔をしてて背も高い。
「よぉ」
その顔面からは想像もつかないほどの偉そうなムカつく態度。
私は無視して歩き続ける。
「ちょっと伊織!」
みっちゃんの制止も無視する。
グイーッ
「わぁ!」
リュックを引っ張られて、後ろにこけそうになった。
トンッ
もたれかかった先は、キモ野郎の胸元。
見上げると、あの綺麗な顔が近くで見えた。
ドキッ!
不覚にも少しドキッとしてしまい、そんな自分が嫌になる。
「俺を無視か…いい度胸してんな」
「じっ自分で帰れますから」
「給料無しだぞ」
ズルい!!!
いや、もはや卑怯だし人として終わってる!!!!
私は渋々車に乗り込む。
「みっちゃん、また明日ね」
「伊織、ギガ復活したなら連絡してね」
そうだ!ギガ復活したんだ!
お母さんたちに連絡しなきゃ。
朝急ぎ過ぎて、スマホを忘れてきてしまっていた。
バタンッとドアが閉まり、車が走り出す。
「ギガが復活?」
なに、なんか珍しいな。普通に話しかけてくるの。
「私、スマホの契約最安にしてるから1ヶ月のギガ数が3ギガなんです。すぐなくなっちゃうんだけど、新しい月になったらまた3に戻るんで」
絶対バカにされる。
「ふーん」
あれ?
バカにされなかった?
「伊織様、本日晴様も無事新居から小学校へご登校されましたよ」
「ほんとですか!?よかったぁ」
飯田さんが晴の様子を教えてくれた。
無事学校にも通えて一安心。
くすっ
隣を見ると、窓に肘をついてこっちを見て笑っているキモ野郎。
でもその笑顔が優しく微笑んでいるように見えるのは、私の視力が著しく低下している証拠なんだと思う。