大嫌いな王子様 ー前編ー
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「ハァハァ…痛ッ…」
夢中で走って気づけば
「ここ、どこ…?」
廊下なんだけど、角を何回か曲がったから全くわからなくなってしまった。
近くにあった椅子に座った。
「わぁ…高級なホテルは、廊下の椅子も高級なんだ」
じわ…
涙が溢れてくる。
慣れないヒールの靴を履いてずっと立ってたからか、靴擦れをしていた。
その痛みのせいだね、この涙は。
溢れた涙は行き場をなくして、ボロッとこぼれていく。
わかってたよ。
暁斗くんを好きになった時点で
住む世界が全然違うこと
私なんか釣り合わないこと
好きになっちゃいけない人ってこと
全部わかってたのに、それでも隣にいて良いのかなって思えてしまってた自分が図々しくて恥ずかしくて
あぁ、そうだ。
みじめなんだ。
その涙かな。
こんな不釣り合いな綺麗なワンピースを着させてもらって、暁斗くんの隣にいさせてもらって
それだけで幸せなことじゃんか。
こんな幸せなこと、ほんとは経験出来ないことだよ。
うん!私はラッキーなんだよ。
「ふぇ……」
早く涙、止まってよ。
「伊織!」
和希くんが走ってこっちに来てくれた。
「和希くん…」
「大丈夫?」
ヤバイ!余計な心配かけちゃう!
「あ、あのね!慣れない靴で靴擦れしちゃって。それで痛くて泣いちゃったの!子どもみたいだよねーって、今もまだ子どもか」
「それで…こんな泣いたんだ?」
和希くんが涙で濡れている私のほっぺに手を添えた。
「和希くん?えっと…」
グイッ
「うわ!!」
急に体が浮いたと思ったら、和希くんにお姫様抱っこをされた。
「ちょっと!?和希くん!?」
パニックで涙も止まった。
「足痛いんだろ?これなら泣かないんじゃない?」
そう言って優しく笑ってくれた。
絶対わかってると思う、靴擦れで泣いてるんじゃないって。
「恥ずかしいので…おろしてください」
「嫌〜。筋トレにもなるし」
「筋トレ!?」
意味わかんないよ!とにかく目立ってるから!!
「飯田さんに車出してもらって先に帰ろっか」
「えっでも暁斗くんは…?」
「いいっしょ。まだまだ父さんに連れ回されるだろうし」
そっか…。
そうだよね。
「いお!」
ドキンッ!
前から暁斗くんが走ってやってきた。
どうしよう…
顔見られたら泣いてたってバレるかも。
てか、そもそもこの状況どう説明したら…
私はフイッと顔を伏せてしまった。
「和希…なにしてんだ、離せ」
「なんで命令されないといけないんだよ。暁兄、全然守れてないじゃん」
「…うるさい。とにかく離せ」
「伊織さぁ、足痛いんだって。だから俺たち先に帰るよ」
暁斗くんの声のトーンが低い。
怒ってる…?
「なら、俺が代わる」
暁斗くんが私の体に触れた。
バシッ
無意識にその手を振り払ってしまった。
「あ…ごめんなさい…!」
謝る時に暁斗くんと目が合った。
ドクンドクンッ
すごく悲しそうな暁斗くんの表情。
心臓が痛くなるぐらいの。
「いお…泣いた……?」
「えっと…あの……」
「あー!飯田さんやっと来た〜!家まで先に送って〜」
会場から飯田さんがこっちにやってきた。
「暁斗坊っちゃま、会長がお呼びです」
「………」
返事をしない暁斗くん。
「こちらは私に任せて、今は会長のそばに。そうでなくては、あなたがこれまでやってこられたことが…」
「わかってる。…頼むよ」
そう言って暁斗くんは会場へ戻っていった。
さっきの表情とその後ろ姿が、目に焼き付いて離れない。
「伊織様、大丈夫ですか?なにかございましたか!?」
「いや…ただの靴擦れで。大事にしてごめんなさい」
「飯田さん〜。とにかく車出してよ〜」
「かしこまりました」
今は和希くんに救われた。
あのままだったら、気持ちがもたなかったかもしれない。
私たちは先にホテルを後にした。