お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「そんなに怖い顔をしなくてもいいだろう。――で、本当のところどうなんだ? もう付き合っているのか?」
「黙秘権を行使します」
「ここは裁判所ではないから無効だ。それで?」

 強引に話を進めると、市岡が今日一げんなりした顔を向けてくる。だが、空気を読む気も彼の心を汲み取る気もさらさらない。市岡が話しはじめるまで視線を逸らさずジッと見ていると、根負けしたのか彼が大きな溜息をついた。


「実は三日前……お酒の勢いで関係を持ってしまいました」
「それはおめでとう。ようやく春がきたな」
「……おめでたいんでしょうか? でも、その後も知紗さんは普通なんです。いつもと何も変わらず食事に行ったり出かけたり……。していることは恋人と変わらないのに、明確な言葉がなくて……」
「明確な言葉が欲しいなら自分から言えばいいじゃないか」
「でも告白してフラれたら……」

(このへたれ……)

 目的の階についたのでエレベーターを降り、社長室のドアを開きながら嘆息する。
 なぜこの男は、恋愛が絡むとこんなにも無能になるのだろうか。

「分かった。俺が相馬さんと話してやる」

(俺たちがうまくいったのは二人のおかげでもあるのだから、次は俺が協力する番だ)


 そう意気込んで昼食に瑞希と知紗を同時に呼び出したのだが、二人はさして疑問に思うことなく機嫌良くやってきた。
 そして当たり前のように市岡のためのお弁当を出す知紗に、彼女自身は付き合っているつもりなのがありありと分かった。
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