お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
(初夜って……初夜って……)

 康弘には何度も抱かれているので本当の意味では初夜ではないが、友人たちに揶揄われるとやはり恥ずかしいものがある。

 瑞希が頬を染めて返答に窮すと、知紗がけらけらと笑った。

「それならする前につけなきゃ。どうせエッチする前にお風呂入るからとれちゃうわよ」
「あっ、そうですね。失念していました」
「それにウェディングドレスの下って色々履いているから、捲りあげるのも難しいと思うわ」
「確かに。乱してしまうとせっかく着付けをしてくださった方に失礼ですものね。じゃあ原田さん、ベッドに入る前に自分でつけてください」

 そう言って瑞希の手に香水が入った小瓶を握らせてくる天崎に何と言い返していいか分からず、結局「ありがとう」と言って受け取った。

(もうやだ。恥ずかしい……!)

 だが、香水はかなり瑞希好みだ。背中につけてくれたおかげか瑞希が動くたびにふわりと香っていい演出もしてくれるし、揶揄いは別としてとても素晴らしいと思う。

(トップノートはシトラス。ミドルノートはジャスミンかな)

「つけたての時は柑橘の香りが少し強めに出るけど、ミドルノートのジャスミンの甘い香りがふんわりと包み込んでくれて、優しく上品に感じるわ。押しが強いわけではないけど、これをつけているとなんだか自信が持てる――そんな素敵な香水ね」
「気に入ってもらえて嬉しいです。瑞希さんがジャスミンをお好きだと聞いたので、社長との交際を知った時から、結婚式の時のプレゼントにしようって香料メーカーの研究員の方と話し合って作っていたんです。間に合ってよかった……」
「え? ってことは、これ私のために? 新商品とかじゃなくて?」

 こくんと頷く天崎に、瑞希はぽろっと涙がこぼれた。泣いたらメイクが崩れると分かっているのに止められないのだ。すると、天崎が慌ててメイクを直してくれる。
< 114 / 118 >

この作品をシェア

pagetop