お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「あらあら~、とっても綺麗じゃないの。康弘にはもったいないくらいね」
「そんなこと言ったら康弘さんなんて、すごく男前じゃないですか。俳優さんみたいだわ」

 一気に場が賑やかになり、涙が引っ込んだ。会長は聞こえないくらいの小さな声で「長くなりそうだな」と溜息をつき、兄の腕を掴んだ。

「裕希くん、原田社長はどこにいるんだ?」
「父なら招待したお客様と歓談中です」
「なら、私たちもご一緒しようじゃないか。式の前に少し話そう」

 今日の結婚式や披露宴には多くの企業の重鎮が招かれているので、あっちはあっちで長くなりそうだなと思いながら、出ていく兄と会長の背中を見送った。すると、康弘が「逃げたな」と独り言ちる。

 綺麗だ素敵だと言いながら、代わる代わる瑞希と康弘の手を握ってくる母二人の勢いに気圧されそうになるが、気をしっかり持って康弘にこそっと話しかけた。

(ママたちの相手をさせたら式の前に康弘さんが疲れちゃいそう……)

「康弘さんも会長たちと一緒に招待企業の方々に挨拶してきていいんですよ」
「それは披露宴の時にするので大丈夫ですよ。もうすぐ式が始まりますし、俺は瑞希の側にいます。何よりこのパワフルな人たちの前に瑞希一人を残しておいたら、始まる前に瑞希が疲れてしまう」

 楽しそうに話している彼女たちを見ながら溜息をつく康弘に、同じことを考えていたんだなとつい笑ってしまう。

 瑞希としては康弘の母ともっと仲良くなれるチャンスなので、特段嫌ではないのだが康弘は瑞希を守ろうとしてくれている。その姿が可愛くもあり頼もしくもあり、とても嬉しい。
 瑞希は胸がいっぱいになって、止まっていたはずの涙がまた勝手に出てきた。先ほど康弘が渡してくれたハンカチで慌てて拭う。
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