お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「瑞希、今日はよく泣きますね。大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。幸せで胸がいっぱいになって」
「あらあら、瑞希さんは泣き虫ね。ほら、メイク崩れちゃうから泣き止みましょうね」

 そう言って康弘の母が背中をさすってくれる。そして少しよれてしまったメイクを手早く直してくれた。その手際の良さに目を見張る。

「お義母(かあ)様。とてもメイクがお上手なんですね」

 康弘の母といい天崎といい、手早く直してくれるのでメイクさんの手をわずらわせることがない。だから安心して泣いてしまうのだろうかと瑞希は鏡を見ながら苦笑した。


「ご歓談中申し訳ございません。あの、そろそろ……」
「あ、いけない!」

 式場のスタッフの言葉にハッとすると、皆が「じゃあ、先に行ってるわね」と言って控え室を出ていった。出て行く間際に母が瑞希の肩をポンッと叩いてウインクをする。

「ウェディングケーキは期待していてね」
「ありがとう」

 瑞希は複雑な表情で笑った。
 食品会社として素晴らしいものを用意してみせると息巻いていたので、少し不安だ。

(めちゃくちゃ豪華なものを作っていたらどうしよう……サプライズとか言って見せてくれなかったのよね)

 ケーキを見るのが怖い。康弘がチェックしてくれているので大丈夫だとは思うが、やはり胸がざわつく。

「じゃあ、俺たちも行きましょうか」
「はい」

 そう言って康弘が手を繋いでくれる。瑞希たちは手を繋いで式場のスタッフの案内のもとチャペルへ移動した。

「ねぇ、康弘さん。ウェディングケーキって……」
「それはあとのお楽しみです。それより瑞希、考えるのはケーキのことじゃないでしょう。今日やっと名実ともに夫婦になれるんですよ。そっちを考えてください」
「それはもちろん考えています。考えているから、さっきからかついつい泣いちゃうんでしょ」

 瑞希が唇を尖らせるとその唇に康弘の手が触れる。そしてゆっくりとなぞられた。その手の動きにドキドキして瑞希が足を止めると、康弘の顔が近づいてくる。

「以前、瑞希が着てくれると言ったセクシーなランジェリーを用意しているんです。今夜着てくださいね」
「~~~っ!」
「だから、このあとは泣かずに頑張りましょうか。そうしたらご褒美をあげますから」

 とんでもないことを耳元で囁く彼に、著しく体温が上がる。瑞希が耳まで真っ赤にして立ち尽くすと、式場のスタッフが振り返り首を傾げた。
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