お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ!」

 慌てて首を横に振って、チャペルのドアの前まで歩く。すると、タイミング良く父がやってきて康弘と固い握手を交わした。

「この佳き日を迎えられて本当に良かった。不束な娘ですが、瑞希をよろしく頼みます」
「はい。必ず幸せにするとお約束します」

 二人の会話を聞いているとまた泣けてきそうで、瑞希は顔に力を入れた。

(しっかりしなきゃ! これ以上泣いたら康弘さんに叱られてしまうわ)

 そうしたら、初夜がお仕置きの時間になってしまう。それは困る。

 瑞希は気を引き締めた。


「新郎様のご入場です」
「あ、行かなければ……。瑞希、もう泣いてはいけませんからね」

 司会の人の声がしてドアが開かれると、瑞希は息を呑んだ。
 康弘はヘアセットを崩さないように軽く瑞希の頭を撫でて忠告をしてから中に入っていった。その足取りは堂々としたもので、緊張は一切見られない。その背中がとても頼もしく見えて、瑞希も背筋を伸ばした。

 司会の人の言葉を待ちながら、康弘とのこれまでを思い出す。

(見合いの日から今日まで半年と少しか……本当にあっという間だったな)

 子供の時に止まっていた二人の歯車は、きっと見合いの日からではなく瑞希が就職先を決めた時から今日に向かって動いていたのだ。

(康弘さん……)

 心の中で愛する人の名前を呼ぶ。
 瑞希は司会の人の入場の言葉を聞き、幸せへと続く光の中へ一歩踏み出した――
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