お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「ふあぁっ、眠い……」

 会社に着いた途端、急激な眠気が襲ってきて欠伸が漏れ出る。しっかりしなきゃと頭を左右に振り眠気を散らそうとしたが、急に頭を振ったものだから眩暈がして足元がふらついた。

(あ!)

 体勢を立て直せずに転ぶと覚悟した瞬間、誰かに支えられておそるおそる目を開く。

「あ、あれ?」
「大丈夫ですか?」
「は、はい、ごめんなさ……え。社長……?」

 瑞希は抱きとめてくれた相手を見て、びくっと体を強張らせた。一番会いたくないと思っていた相手の腕の中にいて脳内は大混乱だが、そんな瑞希をよそに彼は気遣わしげに瑞希の額に手を当てた。ひんやりとしていて、思わず目を伏せる。

(社長の手、気持ちいい……)

「熱はないようですね。だが、顔色が悪い……。風邪ですか?」
「い、いえ。ただの寝不足です……」

 彼の腕の中から逃れようともがくと、離してくれる。でも彼はまだ心配そうだ。
 その姿に夢の怖い感じが一切なくて調子が狂う。

「体調が悪いわけではないのでしたらいいのですが、無理はしないでください。昨日の件は重荷でしたか?」
「そ、そんなことはありません! 必ず期待にお応えするので大丈夫です! あの論文を書いたのは私ですし、元々は私がしていた研究ですから……。だ、だから、私がいないと……」

 体調管理もまともにできないのかと言って研究チームから外されると思い、慌てて首を横に振る。

 彼は完璧主義で使えないと判断したら容赦なく切り捨てると聞く。足を引っ張ると思われたら、簡単に外されるだろう。

(嫌。ずっと頑張ってきたのに……。あれは私のものなのに!)

 縋るように露口を見ると、彼が瑞希の手にドリンクを握らせた。予想外のことに目を瞬かせる。
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