お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「え……何これ」
「これは我が社で出している眠気覚ましです。よろしければ、どうぞ」
「……あ、ありがとうございます。で、でも……」
「誤解をさせたならすみませんでした。外すつもりはないので、今までどおり頑張ってください。ただ俺は……一人で抱え込まないようにと言いたかったんです。悩むことがあれば皆に相談してください」

 柔らかく微笑みかけてくれる彼に思わず呆ける。すると、頬に手が添えられた。

「今回のものが形となり医療現場に届くまでに十年。いや、それ以上かかる可能性だってある。その間、途中で開発を断念することなく、必ず成果を上げるためには貴方がしっかりしなければなりません」
「社長……」
「同僚には言えない悩みや愚痴などがある時は社長室に吐き出しに来てください。貴方が自分から放り出さない限りは、どれほど弱音を吐いても取り上げたりしませんので」

 この人は誰だろうか。見合いをしたくないから結婚しようと無茶苦茶なことを言ってきたり、しれっと婚姻届を書かせようとしてきた人と同じ人だとは思えない。ましてや夢の中の怖い露口とは別人だ。

 瑞希は動揺が隠せずに、揺れる目で彼を見つめた。

「いつでも歓迎しますよ。貴方のために美味しいお茶を用意しておくので」
「え……」

(どうして?)

 固まって動けない瑞希に、そう言ってにこやかに去っていく露口の背をぼんやりと見送る。
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