お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
 ***

「はぁ~っ」

 翌日、瑞希はいつもより遅めに出社した。ロッカールームに荷物を放り込んで白衣を手に持ったまま、のそのそと研究室に向かう。

(いつもより遅いせいか社長と会わなかったな……。しばらくはこの時間に出社しようかしら。それによく見る夢のことも本当にどうにかしないと……)

 正直なところ心身がもたない。
 ふぅっと小さく息をつくと、知紗が小声で笑いかけてくる。

「おはよ。今日は遅いね」
「うん。ちょっと寝坊しちゃったの」

 露口に会いたくないからとはなんとなく言えず笑って誤魔化し、白衣を羽織る。その間も彼女は瑞希をジーッと見ていた。その張りつくような視線に首を傾げる。

「何? 何かついてる?」
「ううん、何も。いや、最近社長と仲良さそうだから、観念したのかなって。結婚式はいつ?」
「……っ!」

 爆弾発言にゲホゲホと咽せてしまうと、彼女が「大丈夫?」と呑気な声を出しながら背中をさすってくれる。
 キッと睨むとキョトンとされてしまって、力が抜けた。大仰な溜息をつき、パソコンの電源を入れる。


「やめてよ。結婚なんてしないわよ。そもそも社長は私のこと気づいていないんだから!」
「えー。絶対分かってると思うよ。瑞希こそ気づいてないの? 社長が構うのってあんただけだよ」
「へ?」

(社長が構うのは私だけ? いいえ、それは夢の中だけだわ)

「そ、そんなわけないでしょう! 変な先入観を持ってるからそう見えるのよ!」

 声を荒らげた瞬間、所長からの咳払いが聞こえて二人して縮こまる。

(やば……)
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