お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「わぁ、すごい! とても似合ってるわよ」
「ちょっと……。これはやりすぎよ。仕事中にしてはメイクが濃いわ」

 見合いの時と同じようなメイクをされて、瑞希は鏡を見ながら震えた。すると、知紗が自分の睫毛にマスカラを塗りながら大丈夫大丈夫と笑う。

「瑞希ったら心配しすぎ。要は遭遇しなきゃいいんでしょ。社長は滅多に研究棟(こっち)のほうに来ないから平気だってば。それよりそのメイクをすぐに落としちゃうほうがもったいないわ。あ! せっかくだから、終業後に飲みに行こうよ」

 泣きそうになると知紗が声をひそめて励ましてくれる。確かに彼女の言うとおり、こっちで露口に会ったことはないからきっと大丈夫だと不安な心に無理矢理言い聞かせた。


(でも本当に大丈夫かな。今日に限って用事があって来たりしない?)

 訝しげに鏡に映る自分の顔を睨みつけていると、天崎がなぜかヘアメイクまで始めた。

「このあと飲みに行くなら髪巻いてあげますね。ついでにヘアスタイリング剤のモニターもしてくれると嬉しいです」
「ありがとう……。でも、私はいいから知紗の髪をしてあげてよ」

 ヘアスタイリング剤を選びながら、カールアイロンの準備を始めた天崎に知紗を押しつける。

「私は自分でするから大丈夫よ。せっかくだからヘアセットしてもらいなよ」
「いやいや、さすがに髪までセットしたら言い逃れができないでしょ!」
「え? なんの話ですか? 言い逃れ……?」

 天崎がカールアイロンの温度を確認しながら首を傾げた。

(やっぱり駄目! これ以上は危険すぎる!)

 本能が今すぐメイクを落とせと言っている気がする。

 瑞希は慌てて立ち上がり、机の上に置かれたクレンジングオイルを掴んだ。その瞬間、背後から伸びてきた手にそれを取り上げられる。

(え?)
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