お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
 突如伸びてきた明らかに女性の手ではない骨ばった男性的な手に瑞希は目を見張った。ぶわっと変な汗が出てきて、体が強張る。

(いつ入ってきたの? 三人で騒いでたから全然気づかなかった……!)

 瑞希が震えていると、知紗の「しゃ、社長!」という悲鳴じみた声が聞こえてきて、さらに泣きたくなる。

(ど、どうしよう……ああもう。メイクなんてしちゃいけなかったのよ)

 瑞希が自分の行動を悔やんでいると、天崎の口から耳を疑うような言葉が飛び出した。

「露口社長、お疲れさまです。今日は原田さんの肌の調子が良かったので、ご指定どおりのメイクを施しております」
「ありがとうございます。そうですか、調子がいいのなら良かった……。やはり敏感肌なんですか?」
「見たところ、そうは感じませんでしたが……原田さん自身に自覚があるなら今後も気をつけたほうがいいかもしれませんね」

(……!!)

 二人の会話に目を大きく見開く。横目で様子を窺うと、最初はどうしようという顔をしていたはずの知紗が、ポンッと肩を叩いてきた。その目は『もう観念したら?』と物語っているようで、この中に味方がいないことを悟る。

「少し原田さんと話があるので、申し訳ありませんが席を外していただけますか? お礼に昼食の用意をさせているので、外にいる市岡に案内してもらってください」
「ありがとうございます!」

 天崎と知紗の嬉しそうな声にぎりぎりと歯噛みする。

(この裏切り者たち……)

 あとで覚えていなさいよと横目で睨んでいるが、彼女たちは気にせずに足取り軽く部屋を出て行った。ドアの閉まる音が無情に響く。
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