お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「恋をしないと決めたならしなくていいです。その代わり愛し合えばいい」
「何を言って……」
「恋と愛は似て非なるものです。俺は貴方と愛を育んでいきたいです」
「で、でも……私……」
「貴方に忘れられない人がいるなら、別に構いません。過去を忘れさせてやるなんて、そんな無責任で勝手なことも言うつもりはないです。過去は今の貴方を作る一部です。なら、俺はそんな貴方も引っ括めて受け止めたい」

(……っ!)

 そう言われた途端、決壊でもしたかのように涙がだばっと出てきた。慌てる露口のジャケットを掴んで泣くと、彼が困惑したまま抱き締めてくれる。

「す、すみませんでした。泣かせるつもりでは……」
「ち、違うんです。社長は何も悪くないです。わ、私……大学の時に付き合っていた人が、すごく気の多い人で……最初から遊び相手の一人でしかなかったんです。それなのに浮かれて……夢中になって……」

 目の前で平気な顔で浮気を繰り返す彼を問い質すと、『数回寝たくらいで彼女面をするな』と言われてしまった。あの時の心底面倒臭そうな顔と声が今でも忘れられない。彼と過ごした一年間は彼からしたら、ただの戯れでしかなかったのだ。

 思い出すだけで悔しい気持ちでいっぱいになる。もうあんな男に未練なんてないが、いっ時でも夢中だった自分が許せないのだ。唇を噛むと、露口が瑞希の唇に触れる。
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