お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

事前の根回し

「ありがとうございます。絶対に大切にします」
「で、でも、まずは一年ですからね!」

 きつく抱き締めてくる康弘の胸をぐいぐい押しながらそう付け足すと、彼が屈託なく笑う。

 最初は彼から逃げたいと思っていたが、今は――彼の優しさに触れて、その気持ちが変わりつつある。未来の自分の気持ちなど自分自身でも分からないのだから、試用期間を置くのは確かに悪くないのだろう。

(やってみて駄目だったらその時はその時よね……。それに夢のようにうまくいく可能性だってあるし)

 何年もかけたものが無駄に終わる。研究というものはそういうことがあるものだが、だからと言って最初から諦めようとは思わない。人生も時には失敗を恐れずに挑戦あるのみなのだと、康弘から教えられた気がした。

「もちろんです。貴方がくれたチャンスを必ず掴み取ってみせますよ。ですが、そのためにも不安なことが出てきたら、その都度ちゃんと言ってくださいね。善処しますので」
「はい。ありがとうございます」

 こくこくと頷くと、いい子だと褒めてくれる。面映ゆい気持ちになって俯くと、頭を撫でられた。


「それでは、そろそろこの一年をどう過ごすか決めましょうか」
「どう過ごす?」
「まずは瑞希さんのご両親に挨拶をしましょう。そこで一年の婚約期間を置いてから結婚するつもりだと話して、両家の顔合わせをするのはどうでしょうか?」

(あ、そういう意味ね)

 てっきりどういうふうに恋人として過ごそうかと尋ねられたのだと勘違いし、一瞬身構えた自分が恥ずかしい。瑞希は気まずげに視線を逸らした。

「私もそれでいいです。一応、今日にでも父に康弘さんとお付き合いすることになったと話しておきますね。……一度は断っておいてと言ってしまってるので、早めに話しておかないと会長に断りの連絡を入れてしまったら大変ですし」

 目を伏せたままえへへと笑うと、彼は先ほど巻いた瑞希の髪に触れながらフッと笑った。
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