お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「え……そのお菓子……」
「お嫌いでしたか?」
「あ、いえ。好きです。大好きなお菓子だったので、少し驚いただけです」

 目の前に並べられた焼き菓子カントゥッチに目を瞬かせる。見た目はサクサクしてそうだが、実際食べると固くてガリッと音がするトスカーナの伝統菓子だ。

(この固さがたまらないのよね……)

 瑞希は一つ手に取って思わず笑顔になった。
 最初は固すぎて驚いたがだんだんとクセになっていき、今では普通のビスケットでは満足できないほど大好きなお菓子だ。

(これがここで食べられるなんて……嬉しい)

「ああ、良かった。瑞希さんのお母様から、貴方の好きなものを色々と教えていただいたので取り寄せてみたんです」
「へぇ……」

 聞き逃せない一言に顔を引き攣らせる。眉をひそめながら、お菓子を見た。

(パパの次はママ?)

「もしかして、うちの親と結構連絡取ってたりするんですか?」
「結構というほどではないんですが、たまに……」
「……」

 瑞希は、自分の知らないところで父どころか母までもが康弘と仲良くしていた事実に頭をかかえた。

「もう嫌。頭痛い……」

 苛立ちをぶつけるようにガリガリとカントゥッチを齧ると、康弘が少し困ったように眉根を寄せた。

「大丈夫ですか? 今日はお風呂に入って、ゆっくり休んでください」
「……。その前に一つだけいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「一年間は貴方と向き合うと約束しましたし、今後は逃げないでちゃんとします。だから、これからは気になることがあるなら両親じゃなくて私に聞いてください」
「承知しました」

 笑顔で即答する彼に、瑞希は小さく息をついた。

(康弘さん、言えば話も聞いてくれるし優しいけど……。社長だからなのか、一緒にいるとまだまだ緊張するのよね)

 至急慣れなければいけないなと考えながら俯くと、体がふわりと浮いた。膝に座らせられたのだと気づいた時にはすでに遅く、逃げられないようにしっかりと抱き締められていた。
< 52 / 118 >

この作品をシェア

pagetop