お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「もしかして私の荷物? 持ってきてくれたの?」
「気になることもあったし母さんが持っていってやれってうるさいからね。一人暮らしをしている部屋のものを大体持ってきたから、一応あとで確認しておいて」
「ありがとう」

 瑞希がぺこりと頭を下げて運び入れて欲しい部屋を伝えると、兄がまた頭を撫でてくれる。そしてぎゅっと抱き締めてくれた。先ほどよりも力強い腕に「裕希お兄様?」と名を呼ぶ。

「いつも言ってるだろう。瑞希はうちのこととか気にせずに好きに生きていいんだよ。こんな会って間もない男と暮らさせるなんて、父さんたちは何考えているんだか……。荷物を持ってきておいて何だけど……瑞希が嫌なら僕がすぐにでも父さんを説得するよ」

(お兄様……)

 兄の歯噛みする顔を見て、胸が痛くなった。


 ――兄は原田家の長男として生まれて、最初から跡取りとしての人生が決められていた。通う学校もすべて決まっていたし、大学卒業後はグループ会社で学び、程よいところで本社へ移動。結婚相手すら、自分では選べなかった。
 いつだって兄は父が決めた跡取りとしての筋書きどおり生きてきたのだ。もちろん瑞希だとて、原田の娘として生まれたのだから同じように父の決めたとおりに進むはずだった。だが、兄はそんな生活を妹には強いたくないと言って、父を説得してくれたのだ。だから瑞希は自分で選んだ大学で好きな学問を学ばせてもらい、就職先も自分で選択できた。

 兄は血を吐くような努力をして瑞希の分も頑張ってくれていた。瑞希が自由に生きている裏にはいつだって兄の加護と犠牲があったのだ。

(パパって私には甘いけどお兄様には厳しすぎるのよね……。そろそろ私もお兄様を守れるように強くならなきゃ)

 瑞希は胸元をぎゅっと掴み、小さく首を横に振った。
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