お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「それよりも立ち話もなんだから、リビングに行こうよ。運んでくれている方たちの分もお茶淹れるから飲んでいってよ。あ、トスカーナのお菓子もあるよ」
「それは魅力的な誘いではあるんだけど……ごめんね、瑞希。実はこのあと仕事が詰まってるんだ。だから今度にさせて?」
「え……今日土曜日よ。お兄様も仕事なの?」

 経営側の人間は瑞希が考える以上に忙しく大変なんだろうなと考えながら、眉根を下げる。

(そうよね……康弘さんも家でも仕事してたって言っていたし忙しいのは当たり前か……)

 無理を言って兄を困らせるのは本意ではないので、掴んでいた兄の手を離す。すると、彼は何度も謝りながら頭を撫でてくれる。そして額にキスしてくれた。

「近いうちに絶対に来るから。約束ね」
「もうお兄様ったら、額にキスなんてして。私、もう子供じゃないのよ」
「僕からしたら瑞希はいくつになっても可愛い妹だよ。それに玄関のドアを開けた途端、抱きついてくるんだし、まだまだ淑女とは言えないな」

 そう言って笑った兄に唇を尖らせると、「ほら、そういうところだよ」と揶揄われる。

「まあいいわ。お兄様の前ではまだまだ甘えてしまうのは本当だものね。でも今度絶対に遊びにきてね? 康弘さんを紹介するから」
「分かったよ」

 瑞希が甘えるようにすり寄ると抱き締めてくれる。その瞬間、ドアが開いた。


「何をしてるんですか?」
「や、康弘さん……!? びっくりした。おかえりなさい。もうお仕事終わったんですか?」

 引き攣った顔で立っている康弘に一瞬驚いたが、兄から離れて彼を出迎えビジネスバッグを受け取る。が、なぜか彼は機嫌が悪そうだ。

(康弘さん?)

「瑞希と昼食を一緒にとろうと思い、一度戻ってきたんです。まさかこんなにも面白いものが見られるとは思っていませんでしたが」
「え? 面白いもの?」

 康弘の言葉に目を瞬かせると、兄があはっと笑った。

「嫌だなぁ。なんか誤解してる?」
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