お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「昨日の貴方を見ていないから何とも言えないけど……たぶん大丈夫じゃないの? でもさ、大学生の時のことをまだ気にしてるの? 私は過去の男なんて、さっさと忘れて新しい恋をしたほうがいいと思うけどね。この機会に社長とお試しで付き合ってみたら? 噂とは違って、優しくて素敵な人かもしれないよ」
「冗談はやめてよ。もうお見合いはしたくないから結婚しようとか言いだす人のどこに素敵さがあるのよ。きっとあの人からしたら結婚もタスクの一つなのよ。絶対に噂通りの冷徹社長に決まってるわ」

 思いっきり首を横に振る。すると、彼女は大きな溜息をついてロッカーの扉を閉めた。そんな彼女の表情を見て何も言えないまま俯く。

 大学の時に付き合っていた人に裏切られて捨てられてからというもの、恋愛から縁遠く生きてきた。恋なんて不毛なもの――もう二度としないと決めたのだ。

 だが、彼女は一度の失敗で未来にあるかもしれない幸せを諦めるのはもったいないと、頑なな瑞希をいつもたしなめてくれる。

(……)

 ぐっと唇を噛む。
 彼女が心配してくれていることくらい分かっているのだ。それでも過去を過ぎたことだと片づけることはできない。


「決めるのは貴方だけど……ずっと隠れて仕事をするわけにはいかないんだから、断るつもりならちゃんと話し合って結婚の話を白紙に戻してもらったほうがいいわよ」
「それは分かってるわ。昨日のうちに父には断りの連絡を入れてとお願いしておいたから、きっと大丈夫だと思う。そのうち社長も私のことを忘れるだろうから、しばらくの辛抱よ」

 このまま露口と再会しなければお互いに昨日のことは風化していくだろう。そうすれば、関係は元通りだ。何も怖がることはない。

「それなら、いいんだけど……瑞希の考えているように簡単にいくかな」
「ちょっとやめてよ……。不安になるでしょ」

 ぼそっと恐ろしいことを呟く知紗を肘で突く。

 少し寒くなったように感じて両腕をさすりながら、知紗と一緒に研究室に入る。気を取り直して、パソコンの電源を入れ進行途中の製剤化研究について確認しようとした。

(えっと……)
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