お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「実は一つ相談があるんですがいいですか?」
「ええ。俺も話したいことがあったのでちょうどいいです。お先にどうぞ」

 食後、コーヒーを淹れながらそう促すと彼女は不安げに康弘を見た。どうしたのだろうと思い、マグカップを二つ持って隣に座る。

「どうしました? 仕事で何かあったのですか?」
「いいえ。仕事は順調です。ただ……昔付き合っていた人が私のことを探しているらしいんです」

 知紗から聞いたのだと苦しげな表情で話してくれる彼女の背中をさする。

 どうやら安東は随分と派手に動き回っているようだ。瑞希の耳にもこうして入るのだから、彼女の気持ち次第では至急動かなければならない。そんなことを考えながら、彼女の手に触れる。

(それにしても、この表情はどういう感情からくるものなんだろうか……)

「瑞希はどうしたいんですか? よりを戻したい?」
「え?」
「実は貴方のお兄さんからのテストは安東の件でした。どこからか貴方の実家のことを嗅ぎつけたらしく会社のほうに来るので、瑞希に知らせずに対処しろとのことでした。……が、貴方は詳しく知り選ぶ権利がある」
「選ぶ権利?」

 瑞希の兄から渡された封筒を渡すと彼女が中身を確認しながら、弱々しい声を出す。

「俺の知る限りではどうしようもなく女癖が悪い男ですが、貴方にとっては過去好きだった男でしょう? 恋をしないとまで思わせた男でもあります。そのように考え方に影響を与えた相手が現れて、瑞希はどう思いましたか?」

 これを聞いて瑞希は嬉しいと思うのだろうか。それとも終わった恋を蒸し返されて嫌な気持ちになったのだろうか。

 瑞希の真意をはかりかねて彼女をジッと見つめると、彼女が安東のことが書かれている報告書を握りしめた。心なしか、わなわなと震えている。

(瑞希?)
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