お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

瑞希の元交際相手②

 ――ずっと一般家庭の子が羨ましかった。家にはお手伝いさんや執事など色々な人がいたが、両親はほとんど家にいないし、兄はとても忙しそうで、幼い頃は孤独を感じていたように思う。
 もちろん原田の娘として生まれたからこそ享受できたものもあるのは理解しているが、ずっと窮屈でたまらなかった。だから、親に決められた大学ではなく自分で決めたところに進学することができた時、せめて学内にいる間だけは『原田家のご令嬢』という荷物を下ろしていたかった。

(幸い珍しい苗字ではないから、その点は助かったわよね)

 握り締めている紙に視線を落とす。
 今朝、知紗から聞いた話と兄からのテスト内容が一致して、瑞希は呆れと怒りが混じった何ともいえない気持ちになり嘆息した。


「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。迷惑をかけてごめんなさい」
「迷惑なんて、そんなことありません。このテストは俺が認めてほしくて勝手に受けただけなので」

 瑞希は気遣わしげに顔を覗き込む康弘に笑いかけ、彼の肩に頭を乗せた。すると、頭を撫でてくれる。

 当時――たくさん泣いて心配をかけてしまったので、内々に片づけたいと考える兄の気持ちは分かる。だが、康弘は内密にと言われているのにも関わらず知るべきだと教えてくれた。その優しさに温かなぬくもりが胸を包む。

(知って選ぶ権利……それなら康弘さんにもあるわよね)
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