お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「大学に入るまでは……自由に遊ぶという感覚を知りませんでした。今は普通に許されていることが当時はできなかったんです。もしかすると自由度が高まったことで、少し心が開放的になっていたのかもしれません。だから……安東先輩に惹かれたんだと思います」
「つまり今まで周りにいなかったタイプだから珍しかったということですか?」
「はい。そうだと思います。……彼との日々はとても刺激的でしたから」

 初めてのお酒。初めての夜遊び。父と兄には叱られ母には泣かれたが、それでも見るものすべてが目新しくて夢中になったのを覚えている。

「安東先輩に……実家のことを話していなかったのは、普通の恋を楽しみたかったというのもあるけど、どれほど好きになっても結婚できないと分かっていたから、そもそも伝える必要がないと感じていました」

(それに彼の軽薄さに不安を感じて話せなかったというのも大きいのよね……)

 ぽつりぽつりと康弘に安東とのことを話す。肩に頭を乗せたまま康弘の手を握ると、すかさず握り返してくれた。


「確かに遊ばれて傷つきましたが、今となっては彼との経験はよい勉強になったと思っているので、まったく未練はないです。それに康弘さんが話を聞いてくれたから、もう大丈夫です。だから、先輩に会ってハッキリ迷惑だって言おうかなと思っています」
「それは駄目です。未練がないなら俺に任せてください。二度と貴方の前には現れさせないので」

 瑞希の両肩を掴み、真剣な眼差しで瑞希の目を見据える康弘に小さく首を振る。

「いいえ。お試し期間中なのに、そこまで迷惑をかけられません。それに話し合えばすむことなので」
「甘いです。瑞希は強く押し切られると断りきれないところがあるくせに。第一、襲われたらどうするんですか? 試用期間だから貴方を守る権利がないと言うなら、俺は今すぐ結婚したっていいんですよ」
「そんな……! いくらなんでも大袈裟……」

 あまりにも強い眼差しで見られて言葉が詰まる。瑞希が押し黙ると康弘が瑞希の頬に手を添えた。

 確かに安東(あの人)はいつだってはぐらかして、まともに聞いてなんてくれなかった。康弘の心配はもちろん理解できるのだが、襲われるはさすがにないと思う。

(話し合うと言うよりは、きっぱりと拒絶するために会うから……先輩の態度や言い分はこの際関係ないんだけどな)

 だが瑞希の警戒心の低さに、康弘が眉間に皺を寄せたのが分かっているだけに、何も言えなかった。
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