お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「原田さん」
「はい!」

 すると、所長に呼ばれたので顔を上げた。目が合うと手招きをされたので、なんだろうと思いながら彼の前に立つ。

「なんでしょうか?」
「悪いんだけど今から本社ビル内の第二会議室に行ってくれないかな」
「え……? どうしてですか?」
「この前の原田さんの論文の評価がよくてね。だから色々と話を聞きたいらしいよ」

(論文……)

 研究成果を認めてもらえるのは嬉しいが手放しには喜べない。注目されれば、それだけ露口に自分のことを知られる可能性が高くなってしまう。

 瑞希が難色を示すと、所長が「社長の要望だから拒否権はないよ」と言った。その言葉が鼓膜に突き刺さる。

「……今なんと仰いました?」
「だから社長の要望だと言ったんだ」
「……」

(う、嘘……!?)

 所長の言葉に大きく後退る。激しく動揺する瑞希に彼が怪訝な顔をしたが、今は彼の態度を気にしている場合ではない。

 入社して一度も関わりのなかった人が突然自分に興味を持ってくる。これは運命の悪戯か……だとしたら運命の神様はドSだ。

 背後に知紗からの観念しろという視線をびしびしと感じながら、瑞希はがっくりと肩を落とした。


 運命というか……おそらく昨日の見合い相手と同じ名前を見つけて気になったから呼んだだけだ。
 今の瑞希はすっぴんで髪を簡単にまとめ上げているだけで、昨日のような着飾った姿とは別人のように見た目の印象も雰囲気も違う。自分でもそう感じるのだから、他人なら尚さらだろう。だから怖がる必要はないと言い聞かせながら研究棟と同じ敷地内にある本社ビルへ向かった。
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