お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「馬鹿者!」
「きゃあっ!」

 キスに没頭しそうになった時、突然誰かが康弘の頭を杖で叩いて、瑞希は目を大きく見開き悲鳴を上げた。康弘は叩かれた後頭部を押さえながら、「会長……」と地を這うような声を出し殴った人を睨みつけた。

「か、会長!? ということは……康弘さんのお父様!」

(う、嘘……キスしてるの見られちゃった)

 恥ずかしさと失礼をしてしまってどうしようという気持ちが綯い交ぜになって、混乱した頭のまま慌てて体を起こす。
 ベッドの上で正座をすると、会長が慌てて瑞希を制止した。

「突然体を起こしては駄目だ。あんなことがあったばかりなんだから、楽にしていなさい」
「あ、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げると、会長がとても優しげな表情で微笑みかけてくれる。まるで孫を見る祖父のような温かみのある目に困惑してしまう。

(思っていたより優しそう……)

 彼と会長の顔を交互に見る。
 康弘と対立していると聞いていたからとても厳しい人かと思っていたが、予想以上に柔らかい印象に瑞希は目を瞬かせた。


「大きくなったね」
「え……私のことご存知なんですか?」
「ああ、よく知っているとも。パーティーでいつも原田夫人の後ろに隠れていた恥ずかしがり屋のお嬢さんだ。最後に会った時はこれくらいの背丈の可愛い女の子だったのに、とても綺麗なレディーになっていて驚いたよ」

 腰のあたりくらいを手で示して笑う会長に照れ笑いで返す。確かに幼い頃は人見知りで母や兄の後ろによく隠れていた。そんな頃から知られていたなんてと瑞希は頬を染めた。

「だが、康弘とは気があったのか、よく二人でパーティーを抜け出して別室で遊んでいたんだよ。迎えに行くたびに二人でくっついて眠っていたのが、とても可愛らしかった」
「私たち、昔会ったことあったんですか?」
「ああ。うちと原田さんは何代も前から付き合いがあるから、よくパーティーで顔を合わせたんだ」

 嬉しそうに思い出話を始めた会長に、康弘と顔を見合わせる。

「全然覚えていませんでした」
「俺もです……。ということは俺たちは幼馴染みといいうことですか」

 幼馴染みという言葉を聞いて面映い気持ちになる。瑞希はだったら早く教えてよと心の中で父に抗議をした。

(大きくなるにつれ堅苦しいパーティーには出なくなったからな。ちゃんと出ていたら、康弘さんのこと忘れたりしなかったのかな。……というか会長……思ったより普通?)

 二人をちらりと盗み見る。とてもじゃないが康弘を悪く思っているようには見えないし、二人の雰囲気も特に悪くは感じなかった。
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