お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「変な小細工を……」
「第一、お前はいつも感情が外に出づらく、怖い顔をしているから冷徹社長などと噂が流れるんだ。感謝しているならもっと嬉しそうな顔をしろ」

 皺の寄った眉間を押さえる康弘に、会長が杖で小突く。彼はそんな会長をくわっと目を剥いて睨みつけた。

「別に構いません。『冷徹』というのは冷たく人情に欠けるというネガティブな意味で捉えられがちですが、本来は感情に左右されずに落ち着いて物事を見通すということです。悪口ではありません」
「その理屈っぽいところが嫌なんだ。言っておくが、噂の冷徹はネガティブなほうの意味だ。悪口だな」

 ふんと鼻を鳴らす康弘に会長が嘆息する。そんな二人を見ていると、微笑ましくて自然と笑みがこぼれる。いつまでも見ていられるなと思いながら二人を眺めていると、会長が瑞希の手を両手で包み込むように握った。


「このように至らないところしかない息子だが、何卒頼みます。もしも虐められたりしたらすぐに言ってきなさい。叱ってやるから」
「いえ、私こそ至らないことばかりですが、よろしくお願いします。それに康弘さんはそんなことしません。いつもとても優しいんですよ」
「なら、いいんだが頑固でしつこいところがあるから、瑞希さんに嫌がられないか心配なんだ」

 困ったように笑う会長に、瑞希は確かにと頷きながら笑った。

 最初は康弘の諦めの悪さに半泣きで逃げていたが、今ではそれが良かったと思っている。彼が諦めないでいてくれたからこそ、今があるのだ。

 安東に殴られて怖かった時、真っ先に康弘の顔が浮かんだ。普段なら家族の顔が浮かぶのに、誰よりも会いたいと思ったのは康弘だったのだ。きっとそれが自分の素直な気持ちなのだと思う。

「そんな心配はいりません。私、康弘さんのねちっこいところが大好きなので」
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