お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
「あ、そうだ。今、父さんたちと会長が話してるんだけど、予定より結婚が早まるかもしれないよ」
「え? どうして?」

 予想もしていない兄の言葉に目を瞬かせる。瑞希が首を傾げると、康弘が申し訳なさそうな顔をした。

「今回の騒ぎが原因です。悪い噂をよい話で払拭しようとしているんですよ。表に出ないようにはしたいとは思いますが、今回は駐車場だったこともあり大勢が目にしてしまったので……」
「人の口に戸は立てられぬからね。まあでも瑞希への暴行事件より、うちと露口製薬グループの業務提携と君たち二人の結婚のほうが世間は食いつくだろうから、そんなに騒ぎにはならないと思うよ。警察やマスコミとも連携していくつもりだし」

(なるほど……。確かにそっちで騒がれたほうがいいものね)

 康弘の表情の意味に得心がいって、瑞希はふむふむと頷いた。そして心配そうにしている彼にニッコリと微笑みかける。

「私もそれでいいと思います。自分の気持ちに気づいたので、もう一年の期間は必要ありませんから」
「いいんですか?」
「ええ。康弘さんとなら一年後も二年後も――その先の未来も一緒にいても悪くないと思えたので。いいえ、むしろ一生側にいてください」

 あんなにも嫌だったのに、今では康弘は瑞希の生活に大きく食い込んでいる。この生活がなくなったら絶対に寂しいと思うだろう。

「ありがとうございます。必ず幸せにします」

 莞爾(かんじ)たる表情で抱き締めてくれる康弘の背中に手を回し、瑞希も強く抱きつく。

 何事も逃げてばかりでは本質が見えない。向き合ってこそ多くの選択肢が見えてくるのだと、瑞希は今回のことで学んだ。

(あのまま逃げていたらこの幸せは得られなかったし、康弘さんの優しいところや素敵なところにも気づけなかったわ)


 そのあとは両家で今後について話し合い、半年後に結婚式を行うことが決まった。
 見合いからそんなに経っていないのに、人生は突然大きく変わるのだなと瑞希はしみじみと怒涛の日々を思い返した。

(それにしても両家の顔合わせが病院でなんて……)
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