お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
 試用期間は早々に終わり、結婚の話は着実に進んでいる。彼は必ず幸せにするとも言ってくれて、とても瑞希を大切にしてくれている。順調なのに、なぜあのような欲求不満のような夢を見るのだろうか。

 瑞希は、正面を見据えて真剣な表情で運転する康弘をちらりと盗み見た。その顔を見ていると、あることに思い至る。

(そういえば私……康弘さんに好きって言われていない)

 夢の中では好きだの愛しているだのたくさん言ってくれたが、あれは瑞希の都合のいい夢で現実じゃない。
 それに彼は……精一杯愛しますや好きになってくださいなどはよく言っている気がするが、肝心な本心を言ってくれていないではないか。

(私と結婚したがっているのは知っているけど、それは会社の利益とか康弘さんの条件とかに、私がうまくハマったからよね?)

 それが無意識に不安となって、あのような夢として出たのだろうか。いや、不安よりも願望のほうが大きいかもしれない。

 彼に愛されたい、彼と愛し合いたいという願望のほうが――

 だからあのような破廉恥な夢なのだろうかと考えながら、彼をジッと見つめる。


「……あの、瑞希? そんなに見られていると落ち着かないのですが……。何か言いたいことがあるなら、遠慮なくどうぞ」
「ご、ごめんなさい……」

 苦笑する彼に気まずげに横に向けている顔を正面に戻し、膝の上で両手を握り込んだ。

 言いたいことなんて――そんなの一つしかない。彼の想いが知りたい。

(結婚するなら必ず話し合わなければならないことよね……。問題はいつ尋ねればいいのかだけど……)

 そんなの早いほうがいいに決まっている。芽生えた不安は放っておくと次第に大きくなって心を蝕む。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて今聞いちゃおう、かな……」
「どうぞ」
「は、はい……えっと……」

 いざ話すとなるとなんだか緊張してきて、ごくっと生唾を呑み込んだ。内心では冷や汗ダラダラだ。
 瑞希が頭の中でぐるぐると切り出し方を考えていると、赤信号で車をとめた康弘が瑞希のほうに顔を向け手を握ってくれた。
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