今夜中に婚約破棄してもらわナイト
 誤魔化すために手を繋ぐことを希望することになった私は、なんとも言えずに背の高いレイモンを見上げ、彼もなんだかおかしいと思って居るのか私を不思議そうに見た。

 しばし見つめ合った後、レイモンが言った。

「エレオノーラ? もしかして、君は記憶を失っているのか?」

「……レイモン……様?」

 そっ……そうなんですけど、厳密には少し違うけど、現象としては同じっていうか……どう言って説明して良いものか。

「君は二年生になった時に、急に性格が変わった時があった……あの時と、一緒だ」

「……は?」

 二年生の時って、もしかして……物語が始まるマリアンナが、転校して来る時のこと? 

「エレオノーラ……僕たちは前は上手くいかなかったが、今は愛し合っている婚約者で、マリアンナについても君が手助けして、誰にも文句も言わせないような完璧な淑女になったんだ……覚えていない?」

「ごめんなさい……わからない」

 素直な私の言葉に嘘はないと思ったのか、レイモンは私のことを自然に抱きしめた。

 彼に抱きしめられたことを、私は覚えのある感覚だと思った……初めてのことのはずなのに。

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