大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「さらに悲しませることを伝えるのは心苦しいんだけど、この神経毒を無効化する薬を今篠原も開発中らしいわ。だから隆文は焦っているのよ。彼より先につくり出すために」
「そ、それって……」

(自分で毒をばら撒いて、自分で治療しようとしているってこと?)

 いかれているという言葉と共に、変な汗があふれてくる。侑奈が目を見開いたまま固まっていると、玲子がグラスに水を注いでくれる。それを一口飲むと、少しだけ落ち着いた気がした。

「玲子さん、私そんなの絶対許せません! お願いします、私毒物には詳しいんです。どうか私も開発に参加させてください」

 気持ちが落ち着くと、自分のするべきことが見えてくる。玲子に深々と頭を下げると、彼女が安堵の笑みを浮かべた。


「ありがとう。実は多喜子から侑奈ちゃんが有毒植物や薬用植物に詳しいって聞いて、お願いにきたのよ。侑奈ちゃんから言い出してくれて良かったわ」

 胸を撫で下ろす玲子に侑奈は目を伏せた。
 子供のころは好奇心が旺盛だった。植物図鑑を読むだけじゃ分からないことをどうしても知りたくて、自分の体で色々と試したものだ。失敗し苦しむたびに祖父や父に叱られ治療してもらっていたが、いつしか毒に耐性がついたのか何の症状もでなくなっていった。

 侑奈は身を以て、有毒植物や薬用植物の効果を調べ上げたのだ。そのおかげで、どれがどれに効くか、はたまた打ち消すかまで分かっている。

(でもこのことが隆文にバレたら自分のことを大切にしていないって怒られそう)

 怒っている隆文の怖い顔を想像して、ぶるりと震える。侑奈は玲子の手をがしっと掴んだ。


「あ、あの、玲子さん。私が子供のころ毒草や薬草で遊んでいたことは隆文には黙っていてくださいね」
「そういうわけにはいかないわ。だって隆文がいる会社で薬を開発しているのよ。侑奈ちゃんの知識や耐性について説明しないと開発に参加するのが難しくなるわ」
「で、でもめちゃくちゃ怒られます」
「怒られないわよ。そんな昔のこと……」

 だが、玲子は途中で言葉を止めて、ふふふと笑って誤魔化した。

(やっぱり玲子さんも怒るって思っているんじゃないのよ)

 侑奈が顔を青くし肩を落とすと、玲子が「大丈夫、大丈夫」と背中をポンポンしてくれる。

「なら、侑奈ちゃんは本社の研究所でやればいいわ」
「え? いいんですか?」
「ええ。いずれ働く会社だし今から慣れておいたほうがいいもの。私の目も届きやすいし、そうしましょう」
「ありがとうございます!」
「侑奈ちゃんと気が合いそうな優秀な人を何人か用意するわね」

 玲子の言葉に気持ちがぱあっと明るくなる。侑奈が喜ぶと玲子も同じように喜んでくれた。

(これで気兼ねなくこの神経毒について調べられるわ)
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