大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「……」

 ちらりと応接用のテーブルを見る。隆文は侑奈の意識がない間、ここに泊まり込んで仕事をしていたようで、パソコンや書類などがそのまま置かれていた。

 そしておそらく侑奈が退院するまで、ここに居座るつもりなのだろう。

(まあここ……一番グレードの高い特別室だから、仕事するのに不便はないわよね)

 このベッドルームのほかにリビングや会議室兼応接室、秘書室まであるので然程困らないだろう。


「帰りたい気持ちも分かるけど、実家に帰ったつもりでのんびりしているといいよ」

 侑奈がそんなことを考えていると、兄がそう言って点滴を取り替えてくれる。そしてウインクして部屋を出ていった。

(確かに実家みたいなものだけど……)

 両親や兄が働いているので、ここにいるといつでも気軽に会える。だから寂しくはないのだが、やはり病院は病院なので家には帰りたい。

 侑奈が小さく息をつくと、隆文が戻ってくる。だが、その表情はかたい。

(どうしたのかしら?)


「隆文、おかえりなさい。もしかして改めてきつく叱られたんですか?」
「いや、そういうわけじゃなくて……実はパーティーの話をしてたんだ。あんなことがあったし、今回は婚約発表のみで侑奈は欠席させたほうがいいんじゃないかって、父さんが心配していて……」
「え? そ、そんなの嫌です! 頭の痛い問題を片づけて、これでやっと晴れやかな気持ちでパーティーに挑めるって喜んでいたのに、あんまりです」

 隆文の父親は四條製薬グループをまとめる四條製薬株式会社の社長だ。四條の屋敷での存在感は薄いが、玲子引退後に会長になるだけあって、とても強い力を待っている。そんな人に反対されたら、本当に欠席にさせられてしまうと、侑奈は隆文の父を説得するべく、病室を飛び出そうとした。だが、隆文に阻まれる。
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