大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
 ***

「は? 今なんて仰いました?」

 あの忌々しい出会いから十八年の月日が流れ、来年の春に薬学部の卒業を控えたクリスマス。隆文の祖母の四條玲子(れいこ)が実家まで訪ねてきて耳を疑うようなことを言った。

「そろそろうちの隆文のところにお嫁に来ない? って言ったの」
「は……い?」

 紫色の美しい着物の袖で口元を隠し、たおやかに笑う彼女の姿に、侑奈は目が点になった。

(い、今……お嫁に来いって言った? どうして? あれから隆文くんとは接点ないのに……)

 脳が全力で理解を拒んでいるのを感じながら固まっていると、隣にいた兄がクスクスと笑う。

「そんな引き攣った顔しなくても……。隆文ももう二十八歳だよ。さすがに虫を持ったまま侑奈を追いかけまわしたりしないよ」
「そ、それだけじゃないわ。彼には色々と虐められたの……」

 思い出すだけで嫌な気持ちがよみがえってくる。
 侑奈がわなわなと震えていると、兄が侑奈の肩をポンッと叩いた。

「子供じゃないんだから大丈夫だって。俺も親友と妹が仲良くしてくれたら嬉しいな」
「……」

 とてもにこやかな表情で残酷なことをのたまう兄にげんなりとした視線を向ける。

 兄は隆文と同い年ということもあり気が合うのか、とても仲がいい。もの好きだなと思いつつも、自分に累が及ばないならと放っておいたのだが失敗した。今めちゃくちゃ被害が来ている。

(お兄様もお兄様よ。どうして妹を虐める人と仲良くするのよ!)

 こんなことなら二人が仲良くなるのを邪魔しておけば良かったと後悔しながら頭をかかえると、玲子と祖母が眉尻を下げた。

「もう二十年も経っているのに……」
「そうよ、侑奈。とりあえず婚約しましょ」

 意味が分からない。第一、そんな重大なことを『コンビニ行こ』的なノリで言わないでほしい。

「まだ十八年しか経っていません」
「細かいわねぇ。大体、隆文くんが何度か会って謝りたいって言ったのに、それを全部断ってきた侑奈も悪いのよ。謝罪を受け入れてあげないなんて可哀想だと思わないの?」
「おばあちゃんったら、誰の味方なのよ……」
「私は玲子の味方よ」

 祖母の言葉でチラリと玲子を見る。彼女は困り顔で微笑んでいた。

 四條製薬グループの会長である彼女は祖母と女学校時代からの友人だ。そのせいか我が家は四條家と家族ぐるみで仲がいい。

 創薬研究にも興味がある侑奈としては国内大手の四條製薬に嫁げるのは魅力的ではある。

(でも隆文くんは絶対無理なのよ……)

 あの意地悪な顔を思い出すだけで背筋が凍る。侑奈はぶんぶんと大きく頭を振った。
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