大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「女性が好みそうな可愛らしい部屋にしてほしいんだ。いくつか案を出してくれたら、本人に選んで……」
「ちょっと待ってください!」

 話しながら応接室に入ろうとしている二人の間に割って入る。そして隆文の腕を引っ張った。

「どういうことですか? 荒井さんに聞いてびっくりしました。私の部屋は使用人棟にあるんですから、余計なことしないでください」
「そうだけど……一応侑奈は今俺の婚約者候補という立場だし。何より花秋のお嬢様を一時でも使用人棟に置いておけないだろ」
「今はメイドなんだから別に構わないと思います……。あ! まさか実家から何か言われたんですか?」
「そういうわけじゃないけど。とにかく俺が嫌なんだ」

 折れてくれと見つめてくる隆文に、思わず怯んでしまう。どうやら自分は彼の縋るような表情に弱いらしい。

(また子犬みたいな顔して……)


「うう……そういうところですよ。隆文くん」
「そういうところって?」
「すっとぼけないでください。そういう強引なところが嫌だって言ってるんです……。ああもう、昨日少しでも可愛いなんて思った私が馬鹿でした」
「え? 俺のこと可愛いって思ってくれたのか?」
「喜ばないでください! 今はまったく思ってませんから」

 怒っているのに、なぜか嬉しそうにする隆文に余計に腹が立つ。

(ゆっくり歩み寄っていこうって昨日話したばかりなのに! どうして母屋に私の部屋を用意しようとするの?)

 そんなの婚約をすっ飛ばして結婚すると玲子に宣言しているようなものじゃないか。喜んで既成事実にされたらたまったものじゃない。

 侑奈がきつい眼差しで睨みつけると、隆文が眉尻を下げた。

「勝手なことをしたのは悪かったと思ってるよ。でもこの部屋……祖父が昔使っていて、ばあさんにとっても俺らにとっても、あまりいい思い出がない部屋なんだ」
「え……」

(確か玲子さんの旦那様って……)

 隆文の言葉に、以前祖母から聞いた話を思い出す。
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