大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
 四條家を継ぐための婿養子として迎えられたのに家業があわないとたびたび出奔し、花街で遊びまわる多情な人だったと。

「俺が生まれる前から二人とも別居してて仲悪かったんだけど……それでも今まで部屋を残していたのはきっと寂しかったからだと思うんだ」
「……」
「でも侑奈が使ってくれたら、ばあさん喜ぶと思うんだ。片づける理由にもあるし、何よりいい思い出に塗り替えられる。だから頼む」
「……そ、そんな言い方ずるいです」

 そんなことを言われたら断れない。

 才覚のある人が上に立つのが一番なのだろうが、それでも本来支えてくれるはずの人に裏切られるというのはすごく辛かったと思う。

(おばあさまが憤慨しながら「今でも許せない」と言っていたけど、私も同感だわ)

 侑奈がぎゅっと手を握り込むと、隆文が「ごめん」と謝った。

 亡き夫がかつて使っていた部屋を見るたびに、玲子は今も悲しい気持ちになるのだろうか。普段は明るく弱いところを見せない彼女の心中を想像するだけで、張り裂けそうなくらい胸が痛くなった。

「私がお部屋を使ったら玲子さん……喜んでくれますか?」
「絶対喜んでくれるよ」
「じゃあ使います……」

 そう言うと、隆文がとても嬉しそうな表情(かお)をした。その顔を見ながら、小さく息をつく。

(玲子さんが喜んでくれるなら別にいいかな)
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