大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「はぁ~っ」
「侑奈」
「!」

 大きな溜息をついたとき、聞き慣れた声が名を呼ぶ。おそるおそる振り返ると、四條家の執事と祖父が立っていた。

(嘘でしょ。どうしているの?)

 会釈して去っていく執事に、心の中で行かないでと手を伸ばす。

「久しぶりだな。元気でやっていたか?」
「お、おじいさま。玲子さんはお仕事でいませんよ。どうされたのですか?」

 いつもと変わらない(いかめ)しい表情で愛用の杖をつき近寄ってくる祖父に、侑奈はぺこりとお辞儀をした。そしてキョロキョロと祖母を探す。

(おばあさまはいないのかしら)

「てっきり泣きながら逃げ帰ってくると思ったのに、全然実家に顔を出さないのでな。様子を見にきたのだ」
「そ、そうだったのですね。お兄様経由で色々聞いていると思っていました」

(うう、緊張する)

 自分の祖父ではあるが苦手だ。
 侑奈が気まずそうに笑うと、祖父が顔をしかめた。

「悠斗は仕事仕事で滅多に家に帰ってこんのだ。だから様子を見に来たのだが、どうだ? うまくやれそうか?」
「は、はい。子供のときとは違い優しくしていただいています」
「ならば、もう婚約できるな」
「え? いいえ、それはまだ……」
「何故だ? ここには現在の――彼の人となりを確認し結婚できるか調べにきたのだろう? 優しくしてもらっているのなら問題ないはずだ」

(……っ)

 祖父の言葉に唖然とする。
 彼の言っていることに間違いはないが、それは極端すぎる。

「で、でも好きになれなければ結婚はできません」
「は? まさか隆文くんと恋愛でもするつもりか? お前は何を勘違いしているんだ?」
「か、勘違いなんて……」
「これは政略結婚だ。四條家との縁談はうちにメリットしかないのだから、彼に対して恐怖がなくなったのなら、馬鹿な夢を見ていないでさっさとこの話を受けなさい」

 祖父の呆れた視線と声音に侑奈が動けなくなると、祖父が大きな溜息をつく。

「二人の婚約が決まったら玲子は会長職を辞すつもりだそうだ。そうすれば、現在グループ企業にいる隆文くんも本社に呼び戻されるだろう。良いこと尽くめじゃないか」

 祖父の言葉(現実)が鼓膜に突き刺さる。
 玲子も隆文も優しいから忘れていた。

(そうよね……これは政略結婚……)

「侑奈、聞いているか? まったく。お前は悠斗と違い愚図だからいかん。そのくせワガママだ。家のことを思うなら、過去のことなんて水に流して即答すべきだったのに、今の彼を知りたいなどと愚かなことを」
「……」

 侑奈は祖父の小言を聞きながら、スカートをぎゅっと握り込んだ。
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