大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
 ***

 仕事を終えて自室に戻ろうとしたときに、隆文が帰ってくる。侑奈の心とは違い、とても嬉しそうに近寄ってくる彼に、胸が痛くなった。

「ただいま」
「おかえりなさい……」

 無愛想に挨拶をして、侑奈は彼から目を逸らした。

(どうして今帰ってくるのよ……。いつもはもっと遅いくせに)

 今は会いたくないのにと思いながら侑奈が渋い顔をしていると、隆文が顔を覗き込んでくる。

「どうした? 元気ないな。腹減ってるのか?」
「別に……」
「今日、侑奈のおじいさんが訪ねてきたんだろう? それから元気なくなったって荒井さんから報告があったよ。昼も夜も食べてないって」

(荒井さんったら……どうしてバラすのよ)

 心で泣きながら隆文を薄く睨むと、彼が侑奈の頭を撫でてくる。

「どうせ政略結婚がどうとか。色々くだらないこと言われたんだろ。気にするな」
「……」

 なぜ分かるのだろうか。
 図星を指されてどう答えていいか分からず俯くと、彼が侑奈の手を握って歩き出した。おずおずとついていく。

「実は昼間に多喜子(たきこ)さんから電話で聞いたんだ。おじいさんが勝手なことをしたって憤慨してたよ。それと同じだけ侑奈のこと心配してた」
「おばあさまが?」
「うん。おじいさんのことを叱っておいたから、侑奈は何も気にしなくていいって言ってたよ」
「……」

 とても優しい顔で微笑みかけてくれる隆文に、鼻の奥がつんとなる。
 侑奈が顔を上げられないでいると、手を引いて彼の部屋へ入れてくれた。

「私たちの婚約が決まったら玲子さん……引退するんでしょう? そうしたら隆文くんは本社に行けるんですよね?」

 涙を我慢しながら声を絞り出す。すると、彼は何も答えてくれないまま、侑奈の額を指で弾いた。

「……っ!」
「阿呆。ばあさんが引退するのは年だからだ。俺たちのことは関係ない」
「で、でも」
「侑奈のところもそうだけど、うちのばあさんもすごく元気だから忘れそうになるけど、あの人もう八十八歳なんだよ。そろそろ休ませてやらなければと思わないか? 定年を何年すぎてると思ってるんだ」
「そ、それは思いますけど……」
「けど?」

 彼は問いかけながら、手を引いてソファーに座らせてくれる。そしてジャケットを脱いで隣に座った。
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