大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜

正された勘違い

 そして隆文エスコートのもと、車で十分くらいのところにある彼の行きつけの割烹料理店へ向かった。

(へぇ、お洒落なお店……)

 京都の有名料亭出身の大将のお店だそうで、カウンターのみの小さなお店だが、とても上品で雰囲気がいい。

「素敵なお店ですね」
「ここは目の前で天ぷらを揚げてくれるんだ。天ぷら好きだろう?」
「はい」

(お兄様情報かしら……)

 自分の情報がすべて相手に渡っていると思うと変な気分だが、今みたいに何も考えたくないときは、好き嫌いを熟知してくれていると楽だなと思う。

 侑奈が小さく頷くと、店員が角のほうの席に案内してくれる。肩を並べて座ると、隆文がメニューを開いた。

「俺は車だから酒飲めないけど、侑奈はどうする? 飲みたい気分?」
「そうですね。明日もお仕事なので少しだけ飲みたいです……」

 隆文のおかげで大分嫌な気持ちが晴れたが、それでもまだ浮上しきれないので、お酒を飲んで紛らわせたい気分だった。

 彼は「OK」と言って慣れた感じにオーダーをし、ついでとばかりに侑奈の頭を撫でてくる。

「やめてください」

 やんわり払いのけると、彼がクスッと笑った。

「おじいさんにもそう言えばいいじゃないか。身内なんだし嫌なことは嫌って言え」
「それができたら苦労しませんよ。偏屈で頑固だし苦手なんです……怖いし」

 侑奈が眉間に皺を寄せると、隆文は肩を竦めてグラスに口つけた。隆文の手の中のグラスが立てる氷の音を聞きながら、口をへの字にして彼を見る。
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