大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「……」

 しばらく考え込んでいると、枕元に置かれたあの日の子犬のぬいぐるみが目に入る。その瞬間、カァッと顔に熱が上がった。

(ま、まさか、最初から私のこと好きだから虐めてたとか?)

「そういえば、好きになってもらえるように努力するって言っていたものね」

 自覚すると心臓がバクバクと激しい音を立てる。侑奈は子犬のぬいぐるみを抱きしめて、しばらく固まってしまった。

(私はどうなんだろう)

 優しい人だと思う。気遣ってもくれるし、酔っ払って失態をおかしても呆れたり失望したりせずに、介抱までしてくれる。昔の嫌な気持ちなんて忘れそうなくらい今はいい人だ。

 それに昨日だって、侑奈が祖父の物言いに傷ついているのが分かっていたから、わざわざ食事に連れ出してくれたのだ。本当は仕事で疲れているだろうに。


「隆文の言うとおり、いずれは結婚することになるんだろうな」

 素直な気持ちがポツリとこぼれる。
 今の彼は嫌じゃない。それに祖母と玲子の願いを叶えたいとも思う。

 学生時代は勉強中心の生活だったこともあり恋愛なんてしたことがないので、まだそういう感情についてはよく分からないが、そんなものあとからいくらでもついてくるだろう。

「キスくらいしてみてもいいのかしら」

 むしろ一度してみて確認するのもいいかもしれない。

 結婚するなら当然そういうこともしなきゃいけないだろうし、婚約する前にそういうのが不快じゃない相手なのか確認してみたほうが、後々(のちのち)性の不一致によるすれ違いが防げるのではないだろうか。

(でも急にキスしてもいいとか言うのは、はしたないわよね)

 というより、彼の動揺が手に取るように想像できてしまう。めちゃくちゃ喜びもするし心配もしてくれそうだ。

「突拍子すぎるもんね……。でもそれに関してはちゃんと私の考えを伝えて話し合えば大丈夫、かな」

 侑奈はぬいぐるみを力強く抱きしめ、決意を固めた。
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