大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜

再会

 ――翌年、仲夏の候。

「ふぁっ……」

 午前五時。侑奈は欠伸をしながら、クローゼットを開けて制服を手に取った。
 四條家で働く女性の制服はヴィクトリアンメイド服なので、上品でとても可愛い。最初は着るだけで気分が上がったものだが、ここに来てすでに三ヵ月経つので、もう慣れてしまった。


「今日も朝焼けが綺麗……」

 着替えを終えたあとは窓を開けて、静謐な空気に満ちた朝の香りを吸い込む。
 顔を出すと母屋が目に入ったので、ぼんやりと眺めた。四條のお屋敷は都内でも指折りの高級住宅街に建ち、明治時代の和洋折衷建築の名残りが感じられる大豪邸だ。侑奈の実家からも徒歩圏内なので、嫌になったらすぐに逃げ帰れるのがいい。

「でも……全然隆文くん帰ってこないんだよね……」

 仕事の邪魔にならないように長い髪を三つ編みに織りながら、独り言ちる。

 隆文は現在海外出張中らしく、かれこれ三ヵ月ほど姿を見ていない。隆文だけじゃなく、玲子や隆文の両親にも滅多に会えない。

(当然だけど、皆さん忙しいのよね……)

 でも子供の頃からこんな感じだったのかなと思うと、少し胸が苦しくなる。
 お屋敷には執事やメイドなど、たくさんの人が働いているので常に大人が側にいる状況ではあるが、両親と簡単に会えないのはどういう気持ちなんだろうか。


「隆文くん……寂しかったのかな……。だから構ってほしくて嫌がらせしてたとか?」

 自分からポツリと漏れ出た言葉にハッとする。

(駄目駄目。どうして同情してるのよ……)

 今、皆が仕事で家をあけがちなのは隆文がもう子供ではないからかもしれない。昔のことは分からないじゃないか。

 一瞬でも隆文を可哀想に思うなんてどうかしてる。

 侑奈はかぶりを振り、ホワイトブリムを頭につけて自室を出た。

(変なこと考えないでお仕事頑張ろう)
< 4 / 127 >

この作品をシェア

pagetop