大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「侑奈……」

 別に初めて呼ばれたわけでもないのに、耳元で囁かれるとゾクゾクした。恥ずかしくて目を逸らすと、隆文がクスッと笑う。

「やっぱり不快だったか?」
「え……」

 恥じらいを嫌だと勘違いした隆文に驚いてしまい、言葉を詰まらせる。すると、隆文が侑奈から体を離そうとした。

「ち、違うんです。私、キス……はじめてだから……上手に息ができなくて……。それに舌が入ってくるのにも、少しびっくりしちゃって。だ、だから……嫌とかじゃなくて」

 自分でも、らしくないと思えるくらい、弁解する声が上擦っていた。自分から言い出したのに上手にできないせいで彼を傷つけたかと思うと、顔を上げられない。

(そもそも初めてなのに……キスで相性を確認しようだなんて大それたこと……私ったら)

「へ? はじめて?」

 必死になって弁解しているというのに、当の本人は間の抜けた声を出してくる。その声に侑奈が顔を上げると、隆文は声以上に間抜けな表情をしていた。

(何、その顔……)

「嘘だろ。お前まさか、しょ……っ」
「だって勉強で忙しくて、恋愛どころじゃなかったんです。それに、意地悪な誰かさんのせいで男の子が苦手だったし……」

 分かりやすく動揺している隆文を睨みつけ、彼の言葉を遮る。そして、さらにきつい眼差しを向けると、隆文の表情がみるみるうちに明るくなっていった。

「嘘だろ。ずっと俺だけを気にして、処女でいてくれたって言うのか?」
「べ、別に、隆文のために誰とも付き合わなかったわけじゃありません。ただ、機会がなかっただけで……」
「やっぱり侑奈を泣かせるのは俺の専売特許だな」
「は?」

 すごく嬉しそうにこぼした彼の独り言にくわっと目を剥く。聞き捨てならない。ふざけるなと言おうとした途端、彼が侑奈を抱き上げた。

「きゃっ」

 突然の浮遊感に驚いて隆文にしがみつくと、彼は侑奈を抱いたままベッドへ移動した。このまま押し倒されると思って強く目を瞑ると、ペロリと唇を舐められる。

(あ、あれ?)

 拍子抜けしたような顔で隆文を見つめると、彼がフッと笑う。そして侑奈を膝に座らせ、額や瞼、頬にキスを落としてきた。
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