大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「えっと……」

 侑奈が躊躇いがちに玲子を見ると彼女が、侑奈の手をそっと握った。そして柔らかく微笑みかけてくれる。

「お願い、侑奈ちゃん。私たちには待っている時間がないの。私や多喜子が生きているうちに貴方たちの結婚式を見せてちょうだい」
「は? やめてください! 縁起でもない! 長生きしてもらわないと困ります!」

 侑奈がギョッとすると、玲子がクスクス笑う。揶揄われているように感じて、少し不満げに彼女を見る。

「ふふっ、ありがとう。でも、いつまで元気でいられるか分からないから……たまに不安になるのよ」
「玲子さん……」

 悲しげに笑った玲子に胸が痛くなる。
 玲子も祖父母もとても元気なので忘れそうになるが、彼女らの年齢を考えると、その不安を馬鹿げたことと簡単には一蹴できない。

「お願い、侑奈ちゃん」

 玲子の縋るような目に侑奈は言葉を詰まらせた。しばらく逡巡したあと、こくりと首肯する。その途端、玲子が相好を崩した。

「ありがとう、侑奈ちゃん! 嗚呼、そうと決まったからには今すぐ婚約披露パーティーの準備をしなきゃいけないわね」
「え……わざわざパーティーなんてしなくても……」
「駄目よ。侑奈ちゃんがうちの嫁になるって広く周知させないと」

 眉尻を下げると、玲子がすかざず否定する。そして宥めるように侑奈の背中をさすった。

「私が責任を持って侑奈ちゃんを必ず幸せにするから、貴方は何も心配しなくていいのよ」
「玲子さんがしてくれるんですか?」
「もちろん隆文だって貴方を幸せにしてくれるわ。だけど侑奈ちゃんに、うちに嫁いできてよかったと思ってもらうには、皆で貴方を大切にしないと」
「もう充分大切にしてもらっています」

 侑奈はクスリと笑った。
 優しい人だ。彼女の思いに応えるためなら、苦手なパーティーを頑張りたいと思えた。
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