大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜

隆文が買ってきたお土産

 侑奈が今日の仕事を終え鼻歌交じりに自室へ向かおうとしたとき、玄関のあたりが騒がしくなった。

(あら、帰ってきたのかしら)

 時刻はまだ二十時。今日は早く帰ってくるという連絡どおりだ。侑奈が隆文を出迎えに玄関まで行くと、すでに荒井と執事が彼を出迎えていた。

「侑奈、ただいま」
「おかえりなさい」

 侑奈の姿を目に留めてとても陽気に笑った隆文に、ぺこりと頭を下げる。彼は腕を大きく広げて侑奈に抱きつき、「はぁ~っ、疲れが癒える」と独り言ちた。


「お仕事お疲れさまです。お食事はどうしますか?」
「侑奈はもう食べたのか?」
「いいえ。今日は隆文がいつもより早く帰ってくると聞いたので、まだです」
「じゃあ話したいこともあるし、俺の部屋でゆっくり食べようか」

(話したいこと? もう玲子さんに全部聞いたのかしら)

 嫌になるくらい情報の伝達が早い。侑奈は溜息をつきながら、ジッと隆文を見つめつつ頷いた。そして彼のビジネスバッグを受け取り、階段をのぼる。

 背中に荒井たちの微笑ましげな視線を感じるが気にせずに彼の部屋へ向かった。侑奈が私服に着替えているうちに、隆文が厨房から二人分の食事を運んできてくれたので、侑奈はお礼を伝えてグラスによく冷えたお茶を注いだ。


「別に着替えなくて良かったのに」

 テーブルにグラスを二つ置くと、残念そうに溜息をついた彼に手を引っ張られソファーに座らせられる。呆れた視線を彼に向けるが、まったく気にしていなさそうだ。

「どうせこのあと風呂入ってパジャマに着替えるし、メイド服のまま食べたっていいじゃないか」
「隆文って本当にメイド服が好きですね。せっかく可愛いワンピースに着替えてきたのに……」
「その服ももちろん可愛いけど、できればこのあとメイド服を着た侑奈を襲いたかったから、ちょっと残念に思ったんだ」
「なっ……」

(何言ってるの!?)

 こともなげに放たれた言葉に絶句する。まさか酔っているのだろうかと驚愕の視線を彼に送り、自分が注いだものを確認した。が、ちゃんとお茶だった。

「いただきます」
「……隆文の馬鹿。変態」

 ヘラヘラと笑いながら手を合わせる隆文にボソッと悪態をつき、侑奈も同様に手を合わせる。そして先ほど自分が注いだお茶を一口飲み、はぁっと息を吐いた。

 今こそ彼に文句を言うときだ。
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