大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜

隆文の本気さ

「すごい騒ぎだな……」

 パーティーまであと二ヵ月半をきった頃、玲子の指示でパーティーに着る振袖を試着していると仕事から帰った隆文が呆気にとられた声を出す。
 着付けられていて動けないので、小さく手を振って隆文におかえりなさいと伝えれば、彼がとても嬉しそうな顔で近寄ってきた。

「すごく綺麗だな。気位の高いお姫様って感じですごく似合ってる。普段の虐めたくなる感じも可愛いが、これも中々だな。侑奈って和装だと雰囲気が変わるんだな。跪きたくなった」
「じゃあ跪きなさいよ。踏んであげるから」

 息継ぎを忘れて早口で――褒めているのか貶しているのかよく分からないことをのたまう隆文に、侑奈は怪訝な顔で隆文の耳を引っ張った。が、彼は楽しげに笑っている。

(何が虐めたくなるよ。失礼すぎるでしょ、ばかふみ)

 心の中で悪態をつき、目一杯睨みつける。すると、彼は本当に跪いて振袖の裾にキスを落とした。


「俺だけのお姫様。侑奈になら踏まれてもいいよ」
「隆文……」

(そんなかっこいい顔で言うなんてずるい……)

 そんなふうに真剣な眼差しを向けられたら踏みたくても踏めない。

 侑奈はポッと頬を染めた。
 近頃隆文の側にいると心臓が落ち着かない。突然鼓動が速くなったり胸が締めつけられたりするのだ。
 侑奈は自分の頬を両手で挟んだ。心なしか顔が熱い。

 隆文とは恋人として色々なことをした。デートだってしたしセックスだってしている。だからだろうか。

(隆文は体から落とすなんて冗談を言っていたけど……本当に冗談ですまないかも)

 体を交わせば、一緒に心も引きずられる。体を食べられれば心も食べられてしまうものなんだなと身に染みて感じながら、侑奈は話題を変えた。
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