大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
 侑奈が困り顔で首を横に振ると、玲子が不思議そうな顔をした。その手には先ほどまで侑奈に着せていた加賀友禅の振袖が持たれている。今着ているのもそうだが、高名な先生が制作した大作の振袖らしい。

「そう? これじゃあ少し大人し過ぎたかしら。でも確かに晴れの舞台なんだからもっと華やかにしたほうがいいかもしれないわね」
「違います。私なんかにこんな高価なものは相応しくないと言ったんです」

 今着ている振袖は愛らしい胡蝶蘭が散りばめられていて、美しさの中に可愛さが同居している。そのうえ最も格式のある振袖にしか行わない特別な染めの手法を使われていると聞けば、余計に怯んでしまう。

(そんなふうに技術の粋を集められた振袖を私なんかが……)


「なぜだ? 着なれないからって相応しくないなんてことないだろ」
「そうよ。これはすべて侑奈ちゃんのために仕立てたんだから、むしろ貴方以外相応しい人なんていないわ」
「でも……」
「うちの嫁としても隆文の妻としても、安く見られるわけにはいかないの。分かるわよね?」
「はい……」

 玲子の言葉に反論できずに、やむなく首肯する。

 確かに四條製薬グループが主催するパーティーは医療業界の人間のみならず、さまざまな財界人や政治家が招かれる。侑奈が下手を打てば、隆文のみならず四條家や実家の名に泥を塗る可能性だってあるだろう。

(皆に迷惑をかけるのは私だって嫌だけど……でもこんな高価なものを着ると萎縮しちゃうのよね)
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