大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「侑奈ちゃん。着物もドレスも女にとっては戦闘服よ。パーティーは笑顔の裏で何を考えているか分からない腹黒い人たちの集まりだから、高価な服で自分を武装して挑むの。着飾り普段とは違う自分になって、しゃんと背筋を伸ばす。そうすれば怖いものなどなくなるのよ」
「玲子さん」
「そうだよ。侑奈はただでさえ蚤の心臓なんだから完全武装しなきゃ」

 一言多い隆文の腹に肘鉄を食らわせる。不満げに隆文を睨んでいると、玲子が背中をさすってくれた。

「汚したらどうしようとかも考えなくていいのよ。ね、せっかく似合ってるんだから着てちょうだいな」

 侑奈が頷くと、玲子が柔らかい微笑を向けてくれる。そのとき隆文が嬉しそうに玲子の言葉に反応した。

「え? 汚してもいいの?」
「隆文、うるさい。ちょっと黙ってて」

 隆文を黙らせるために侑奈が彼の背中を叩くと、玲子の眉間に皺が寄る。

「貴方……性懲りもなくまた侑奈ちゃんを虐めようって言うの? 反省していないなら、今度こそ貴方を勘当するわよ」
「別にいいよ。そのときは俺が侑奈の婿として花秋家に入るから」

 ああ言えばこう言う隆文に、玲子が本当に怒り出してしまったらどうしようと、侑奈は戦々恐々だった。隆文の肩を軽く叩いて、代わりに玲子に頭を下げる。

「もう隆文ったら馬鹿なこと言ってないで玲子さんに謝ってよ。ごめんなさい、玲子さん。隆文もふざけているだけで悪気はないんです」
「大丈夫よ、ちゃんと分かってるから。それにしても侑奈ちゃんから庇ってもらえるなんて驚くほどの進歩だわぁ」

 クスクスと微笑みながら、簪と帯留めを選んでほしいと宝飾店の人に呼ばれて彼らのところへ向かう玲子に侑奈は目を瞬かせた。
< 90 / 127 >

この作品をシェア

pagetop