大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「ただの軽口だから気にしなくていいよ」
「そうなんですか? 冷や冷やしちゃいました……」
「でも婿として花秋家に入ってもいいと言ったのは嘘じゃないよ。そのために医師免許を取ったんだ、俺は」
「え? そうなの……?」

 隆文の言葉に瞠目する。
 そういえば、彼は大学も兄と同じところだった。幼稚舎から大学までずっと一緒で気持ち悪いくらい仲がいいなと引いていたときもあったなと侑奈は思考を巡らせた。

「そうだよ。侑奈に相応しい男になるために日本最高位の大学に行ったんだ」
「そんなことのためにT大の理三を受けるなんて……しかも受かるなんて隆文って頭いいんだか頭おかしいんだか分かりませんね」
「そんなことって……俺の中ではかなり重要なんだけど。どう? これで俺の本気が分かった? ずっと侑奈だけを見て、侑奈に認めてもらえるようにがむしゃらに頑張ったんだ」
「……っ!」

 そう言って隆文は侑奈に再度跪いた。そして手の甲にキスを落とす隆文の視線に心ごと心臓を撃ち抜かれる。

(私のためにずっと頑張ってきてくれたの? 私はずっと隆文の謝罪を無視して避けていたのに……)


「なんで泣くんだよ」
「だって……ごめんなさい。私、隆文の後悔や頑張りにも気づかずに……ずっと、ずっと、いじめっ子のままだって決めつけて逃げてばかりで……ごめん。本当にごめんなさい」
「そんなに何度も謝らなくていい。元はといえば侑奈を傷つけた俺が悪いんだから」

 だが、もしも玲子があのとき隆文との婚約話を持ち込まなければ……隆文の人となりを調べるためにメイドとして潜入しなければ……きっと今も侑奈は隆文を誤解したままだっただろう。そう考えると、すごくつらいし申し訳ない。

 隆文は泣いている侑奈を抱きしめ、宥めるように背中をポンポンしてくれる。彼はメイクが崩れないようにハンカチでそっと涙を拭って微笑んだ。


「そういえば決めた? この前言っていた俺へのお願い」
「ううん。せっかく何でもしてもらえるのに簡単に決めたらもったいないと考えはじめたら、全然決められなくて……」
「なんだよ、それ。別に変に気負わなくても侑奈の我が儘ならなんだって叶えてやるよ」
「……我が儘言っていいんですか?」
「いいよ。だからもっと簡単に考えろよ。どんな我が儘でも惚れた女から言われたら嬉しいもんだ」

 侑奈がしゃくり上げながら訊ねると、隆文がよしよしと頭を撫でてくれる。

「じゃあ、このあと二人きりでディナーに行きたいです」
「お安い御用だ」

 小さな声でそう言うと、隆文が嬉しそうに笑う。それと同時に部屋の中にいる玲子含め呉服屋や宝飾店の人たちがほうっと息をついた。そして微笑みながら、「可愛いカップルですね」と談笑しはじめる。

(やだ、今は試着中だったわ……!)
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