大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜
「失礼。まさか花秋くんではないかい?」
「え……」

 驚きながら振り返ると、スーツ姿の男の人が会釈してくる。
 年は六十後半。背が低くて、好好爺の笑みが印象的な彼に目が釘付けになる。

篠原(しのはら)教授じゃありませんか」
「ああ、久しぶりだね。覚えていてくれて嬉しいよ。元気にしていたかい?」

 大学院時代にお世話になった教授に出会えて、気分が高揚する。侑奈は深々とお辞儀をした。

「はい、元気でした。教授こそ、私のことを覚えていてくださって嬉しいです」

 侑奈なんてたくさんいた生徒のうちの一人にすぎないのに覚えていてもらえたなんて、めちゃくちゃ嬉しい。

 侑奈がはにかむように笑うと、教授の笑みがさらに深くなる。


「優秀な君を忘れるわけないじゃないか。それで? 今はご実家の病院で働いているのかい? 実は最近君が四條製薬グループに嫁入りすると変な噂が聞こえてきたんだが、まさかデマだろう?」
「いいえ、嘘じゃありません。婚約発表後、四條製薬で働く予定なんです」

 侑奈がそう答えると、彼の顔が曇る。
 昔はパーティーなどの公の場でも気にせず隆文を拒絶していたので、侑奈たちの婚約を信じられない人がいても不思議ではない。

 どう話そうかと侑奈が思案を巡らせていると、教授が同情じみた声を出した。


「可哀想に。政略結婚の餌食にされるんだね」
「いえ、そうではありません。昔は色々ありましたが、今はとても仲がいいんです」

 可哀想なものを見るような目が居心地悪く感じ、侑奈はその視線を振り払うように努めて明るく笑った。

「そんなに心配しないでください。彼ったら、今は私にメロメロなんですよ」
「それならいいが……。あまり我慢はしないように」
「はい。でも本当に大丈夫ですから……」

(そこまで心配されるほど……私たちの不仲って有名だったのかしら?)

 困惑していると、隆文が近づいてきた。どうやら全然戻ってこないので迎えに来てくれたようだ。
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